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No.329

黒田記念室

描かれた風俗-吉川観方の美学-

平成20年11月11日(火)~平成21年1月12日(月・祝)

主題のひろがり
 次の作品「邸内邸外遊楽図屏風」(ていないていがいゆうらくずびょうぶ)になると、「洛中洛外図屏風」のような特定の名所や場所という要素はどうでもよくなり、様々な遊びに興じる人々自体が画題そのものになっています。全面にほどこされていた銀の砂子(すなご)が黒変していたり、画面が相当痛んでいて見にくいかもしれませんが、室内では囲碁、将棋、双六(すごろく)を楽しむ一団、庭先では花見の宴や歌舞を楽しむ一団が描かれています。まるで、江戸初期の頃はこういった遊びがあったのだと披露してくれているようです。描かれたのは17世紀の前半。この作品からは、長い戦乱の世が終わり、平和な時代が訪れた喜びが感じられます。同時に、宗教的な救いに頼るのではなく、現世を肯定し、人生を楽しもうという現実的、享楽的な人生観も読みとることができるでしょう。また次の「輪舞図屏風」(りんぶずびょうぶ)は、「邸内邸外遊楽図屏風」と近い時期の作品で、庭先で繰り広げられている踊りに主題を絞った作品と位置付けられます。
 こうした遊楽図からは、室内に限定して人物を大きく描く作品も現れました。またさらに、そこから当時流行の着物をまとった女性の立ち姿だけを描くジャンルも生み出されていきます。17世紀中頃から後半にかけて数多く描かれた立ち姿の美人図(ほとんどは掛軸作品)が源流となり、18世紀には浮世絵というジャンルが生まれることになるのです。


洛中洛外図屏風( 部分)右側の、箱を抱えている男たちは傀儡師(くぐつし)。小さな人形をあやつる大道芸人である。
四条河原歌舞伎図屏風( 部分)

江戸風俗の中心 歌舞伎・吉原(かぶき・よしわら)
 さまざまな遊楽を披露してくれた「邸内邸外遊楽図屏風」とほぼ同じ頃には、特定の風俗を主題にした屏風絵も描かれました。そのひとつが、歌舞伎の舞台や見物の様子を描いた一連の屏風作品で、「四条河原歌舞伎図屏風」(しじょうがわらかぶきずびょうぶ)はその好例です。
 歌舞伎狂言が行われているのは、後世の歌舞伎座のような立派な建物ではなく、簡単に塀をめぐらせ、小さな木戸から出入りする小屋です。舞台を見ると、演じているのは若衆(わかしゅ)(前髪を切る前の若い男性)であることがわかります。17世紀初め頃に出雲(いづも)の阿国(おくに)が始めたとされる歌舞伎は、多くの模倣者を生み出し、遊女たちによる歌舞伎なども行われて大流行します。女性による歌舞伎興行が禁止されてからは、この図のような若衆歌舞伎がとってかわりました。しかしながら、これも風紀を乱すものとみなされ、17世紀半ばに禁止されて、その後は、現在の歌舞伎のように女性役も成人男性が演じる野郎歌舞伎の時代になっていきます。したがって、若衆歌舞伎を描いた本作品は、1630~40年代頃に制作されたものと考えられます。
 また、画面を細かく見ると、歌舞伎だけではなく、となりでは人形浄瑠璃(にんぎょうじょうるり)が公演されていたり、弓矢の的当(まとあ)てをするゲーム場があったり、周囲にはさまざな店が出て、焼き餅らしきものを売っていたりもします。京の四条河原一帯が、歌舞伎小屋を中心にした歓楽街、観光地となっていたことがうかがえるでしょう。江戸時代版のテーマパークといったところですね。
 一方、歌舞伎と同じように江戸の文化を代表するのが吉原(よしわら)の遊郭(ゆうかく)でした。「吉原廓図屏風」(よしわらくるわずびょうえ)は、明暦(めいれき)の大火(たいか)(1657年に起こった大火事)で全焼したため、移転して新しくなった新吉原の風俗を描き出しており、18世紀前半頃の作品と考えられます。もとは大型の絵巻物だったようで、画面は右から左に連続し、吉原の堺町、角町、新町、本屋町などが描かれています。
 この作品で興味深いのは、店先での客と遊女のやりとりや宴会だけではなく、忙しく働く料理人、大工など裏方の人々の様子も細かく描かれていることです。また、表通りではお囃子(はやし)にあわせて獅子舞が練り歩いていたり、一度は全焼してしまった経験から、火事にそなえた溜水桶(ためみずおけ)や水路があったりと、実際に吉原に取材して描いたことがよくわかる表現があちこちにあります。


吉原廓図屏風( 部分)いそがしそうに食事の支度をする裏方の人々。
吉原廓図屏風( 部分)
いそがしそうに食事の支度をする裏方の人々。

風俗研究家吉川観方(かんぽう)
 今回展示しているのは、京都生まれの日本画家で、風俗研究家として知られた吉川観方(1894~1979)が生涯をかけて収集したコレクションに含まれる作品です。観方のコレクションは京都文化会館や奈良県立美術館にも所蔵されており、当館の一万数千点を合わせると日本最大の風俗関係資料といえるでしょう。
 最後に展示しているのは、観方自らが描いた幽霊画です。右側の「朝露」は四谷怪談のお岩さん、左の「夕霧」は番町皿屋敷のお菊さん。単なる幽霊ではなく、朝の化粧(お歯黒をつけている)や、夕暮に蚊遣火(かやりび)を焚いて団扇(うちわ)であおいでいる姿、つまり江戸風俗の衣をまとわせた姿で二人を描き出しているところに、観方独特の美学がうかがえるのです。

(中山喜一朗)

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