展示・企画展示室1

No.530

企画展示室1

「老い」の図像学

平成31年2月26日(火)~4月21日(日)

笑いと苦(にが)み

 年齢を重ねると体の様々な部分が不自由になり気力も衰えるなど老化が進みます。外見的にも皮膚に皺が増え歯が抜け腰が曲がるなどの変化が起こり、若者から憐(あわれ)みや蔑(さげす)みの目で見られるのも「老い」の現実かもしれません。こうした一種の逆境にどう対処するかは人それぞれですが、中世に成立した物語絵巻「福富草紙(ふくとみぞうし)」(12)は「老い」の現実を「笑い」に転換した作品として異彩を放っています
(以下はそのストーリー)。

 ①ある所に高向秀武(たかむこのひでたけ)という貧しい老夫婦が住んでいた。②これまで何も良いことがなかったので妻の勧めで近くの神社に祈ったところ放屁(ほうひ)の芸(オナラの音が目出度い言葉に聞こえる)を会得(えとく)することができた。③秀武はそれを高貴な人に披露して多くの褒美を得てやがて長者になった。④隣の福富という老夫婦が羨(うらや)ましく思い妻の勧めで秀武に芸を習ったところ秀武の意地悪(芸の前に下剤であるアサガオの種を飲むように言った)のため粗相(そそう)をして打ち据えられた。⑤怒った福富の妻は秀武に呪いをかけ、かみついて散々な目にあわせた。

 これは老人を主人公にした一種のドタバタ喜劇ですが、そこには老人一般に通じる熟練の技が描かれる一方、我欲や身体的な衰えからくる失態、老齢の貧富なども暗示されており、笑いと共に「老い」の現実が醸(かも)し出す何とも言えない苦みが漂っています。

 こうした「老い」の現実や苦みは、能の作品の中にも見ることができます。本展示では息子と生き別れになった老父を描いた『木賊(とくさ)』で用いられる能面「木賊尉(とくさじょう)」(13)、老人の切ない恋をテーマにした『綾鼓(あやのつづみ)』の「茗荷悪尉(みょうがあくじょう)」(14)、絶世の美女・小野小町(おののこまち)の老境を描いた『卒塔婆小町(そとば(わ)こまち)』の「姥(うば)」(15)を紹介しました。また、狂言面「大祖父(おおじ)」は百歳を越える老人の面だとされ、歯が抜け皺だらけになった老人の、良くも悪くもリアルなイメージが表現されています。

生涯現役の絵師
20 馬上人物図

20 馬上人物図

 最後に、92歳で没するまで多くの作品を残したことで知られる筑前の絵師・斎藤秋圃(さいとうしゅうほ)(1768〜1859)について紹介しておきましょう。

 秋圃は明和5年(1768)に京都で生まれ、35歳の頃に大坂新町の遊郭で幇間(ほうかん)(客と芸者の間を取り持ち場の雰囲気を盛り上げる芸人)として働いていたようです。この頃既に絵師としても活動しており、38歳頃に筑前秋月藩主黒田家のお抱(かか)え絵師となり、61歳となる文政11年(1828)頃、隠居して太宰府に住居を移し、以後町絵師としての活動を続けました。

 特筆されるのは、制作年がわかる作品の多くが隠居後の70歳以降に描かれ、しかも寿老人やその象徴である鹿を好んで描いていることです。また、晩年に用いた画号「土筆(どひつ)」は鹿の毛で穂先を作った筆を仕込んだ杖を意味するらしく、これも寿老人と関係するとすれば、秋圃はある時期から自身の長寿に強いこだわりをもっていたことが窺えます。

 展示では88歳以降の作品3件を紹介しましたが、92歳の落款(らっかん)(サイン)を持つ「馬上人物図(ばじょうじんぶつず)」(20)は、全く「老い」を感じさせない颯爽(さっそう)とした筆致を見せています。 (末吉武史)

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