企画展示
企画展示室3
近代福岡交通史3 福岡市地下鉄の40年
令和3年7月20日(火)~11月14日(日)
はじめに

線路の全部あるいは大部分が地下に敷設された鉄道を地下鉄と呼びます。一般社団法人日本地下鉄協会によれば、日本初の地下鉄は、昭和2年(1927)、東京地下鉄道の上野~浅草間であるとされています。その後は大阪にも地下鉄が登場し、昭和戦後には地方都市まで地下鉄の敷設がすすみました。
福岡市では、交通渋滞緩和を目的として、昭和56年(1981)7月に地下鉄が開業しました。今年(2021)は、地下鉄開業から40周年にあたります。
企画展示「近代福岡交通史」では、人力車、鉄道、路面電車など、明治時代以降に誕生した乗り物を紹介してきました。今回は、比較的最近登場した陸上交通機関である福岡市地下鉄の40年の歩みを紹介します。
構想から開業まで
福岡市の地下鉄構想は、昭和36年(1961)に策定された「福岡市総合計画」(マスタープラン)まで遡ることができます。福岡市が初めて作成した総合的かつ長期的な市政計画であったこのマスタープランの中で、西日本鉄道大牟田線(現 天神大牟田線)と宮地岳線(現 貝塚線)、国鉄(現 JR九州)筑肥線と連絡する「市内高速循環鉄道」が検討されました。

昭和40年代になると交通網整備の議論が本格化します。昭和48年(1973)12月、福岡市議会で福岡市が高速鉄道を建設・経営することが決議され、翌年福岡市は運輸大臣に鉄道事業の免許を申請し、免許を得ました。この時に申請されたのは、1号線姪浜~博多間9.8㎞、2号線中洲川端~貝塚間4.7㎞でした。福岡市を東西に走り、天神、博多の市街地をつなぐ路線です。昭和50年(1975)11月、福岡市内線が廃止され、明治時代の終わりから市民に長く親しまれた路面電車は姿を消しました。同月から地下鉄の工事が始まり、昭和56年(1981)7月26日に地下鉄1号線室見~天神間が開業しました。
広がる地下鉄

開業してからの地下鉄は、少しずつ路線を延ばし、市内を通る他の鉄道路線との接続を高めていきました。
昭和57年(1982)4月には1号線の天神~中洲川端、2号線の中洲川端~呉服町が開業します。翌年3月には、1号線の中洲川端~博多仮駅、姪浜~室見が開業しました。姪浜駅の開業によって筑肥線との相互直通運転が始まります。さらに、昭和60年(1985)3月には博多駅が開業し、翌年には2号線が貝塚駅まで延び、宮地岳線と接続しました。平成5年(1993)、1号線は福岡空港まで延伸しました。

市西南部と天神をつなぐ3号線(七隈線)が開業したのは、平成17年(2005)2月3日のことです。橋本~天神南間の12㎞にわたる線路に16の駅があり、薬院駅と天神南駅で西日本鉄道天神大牟田線に接続しています。
地下鉄工事と文化財調査
地下鉄工事では、事前に埋蔵文化財の発掘調査も多く行われました。中でも博多遺跡群や箱崎遺跡は、地下鉄工事をきっかけとして存在が確認され、後に福岡を代表する遺跡になりました。
両遺跡以外にも、1号線の工事に関連して藤崎遺跡や西新町遺跡、福岡城の調査が、3号線の工事に関連して次郎丸遺跡や野芥遺跡、梅林遺跡などが調査され、地域の歴史を復元する上で重要な発見が相次ぎました。地下鉄工事に関わる発掘調査で多くの貴重な遺跡がみつかるという事実は、古くから多くの人々が生活した場所で今も変わらず人々が暮らし続け、そうした場所を繋ぐように交通網が整えられてきたことを示しています。
現在の地下鉄
福岡市地下鉄の車両は、そのデザインや性能から高い評価を受けています。開業当初から運行した1000系車両はデザインや走行性能、省エネへの配慮などの観点から、七隈線を運行する3000系車両は、室内デザインや静音化対策が評価され、それぞれ鉄道友の会が制定する「ローレル賞」を受賞しました。
利用者の利便性を高める取組もすすめています。ICカード「はやかけん」の導入と全国相互利用の開始、全駅でのエレベーター、エスカレーター設置などが実現しました。安全性にも配慮し、転落防止のホームドアを全駅に設置しています。
そして、平成25年度からは天神南~博多間の約1.4㎞にわたる七隈線延伸事業に取り組んでいます。これにより市西南部から博多駅が直通し、都心部の移動が便利になることで、都心部の活力と魅力の向上が期待されています。「市民の足」として、現在も地下鉄は進化を続けています。(野島義敬・朝岡俊也)
福岡市地下鉄関連年表
昭和36年(1961)6月20日 | 「福岡市総合計画書」に「市内高速循環鉄道」が登場する |
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昭和48年(1973)12月22日 | 福岡市議会で福岡市が「高速鉄道」を建設・経営することを議決 |
昭和49年(1974)2月1日 | 運輸大臣に地方鉄道事業免許申請(1号線:姪浜~博多間、2号線:中洲川端~貝塚間) |
昭和49年(1974)8月22日 | 運輸大臣より地方鉄道事業免許 |
昭和50年(1975)11月12日 |
高速鉄道起工式
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昭和56年(1981)7月26日 | 1号線室見~天神間開業 |
昭和57年(1982)4月20日 | 天神~中洲川端、中洲川端~呉服町開業 |
昭和57年(1982)8月1日 | 1000系車両が1982年「ローレル賞」受賞 |
昭和58年(1983)3月22日 |
姪浜~室見、中洲川端~博多(仮駅)開業、筑肥線との相互直通運転開始
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昭和59年(1984)4月27日 | 呉服町~馬出九大病院前開業 |
昭和60年(1985)3月3日 | 博多(仮駅)~博多開業 |
昭和61年(1986)1月31日 | 馬出九大病院前~箱崎九大前開業 |
昭和61年(1986)8月5日 | 運輸大臣に地方鉄道事業免許(1号線:博多~福岡空港間)を申請 |
昭和61年(1986)10月13日 | 運輸大臣より地方鉄道事業免許 |
昭和61年(1986)11月12日 | 箱崎九大前~貝塚開業、西鉄貝塚線と接続 |
平成5年(1993)3月3日 | 博多~福岡空港間開業 |
平成7年(1995)3月28日 | 運輸大臣に鉄道事業免許(3号線:橋本~天神間) |
平成7年(1995)5月8日 | えふカード導入 |
平成7年(1995)6月7日 | 運輸大臣より鉄道事業免許 |
平成8年(1996)7月26日 | 地下鉄マスコット「ちかまる」誕生 |
平成9年(1997)1月22日 | 3号線起工式 |
平成9年(1997)8月1日 | 「1日乗車券」の発売開始 |
平成12年(2000)3月27日 | 全駅エレベーター設置完了 |
平成16年(2004)3月15日 | 空港線(姪浜~福岡空港)全駅にホームドアを設置完了 |
平成17年(2005)2月3日 | 3号線(七隈線)橋本~天神南開業 |
平成18年(2006)1月15日 | 箱崎線(中洲川端~貝塚)全駅にホームドア設置完了 |
平成18年(2006)1月25日 | 地下鉄全駅乗り放題定期券(ちかパス)の発売(2月1日運用開始) |
平成18年(2006)9月24日 | 3000系車両が2006年「ローレル賞」受賞 |
平成21年(2009)3月7日 | ICカード「はやかけん」サービス開始 |
平成22年(2010)3月13日 | ICカード「はやかけん」相互利用開始 |
平成23年(2011)12月26日 | 地下鉄利用者30億人達成 |
平成24年(2012)4月9日 |
国土交通大臣に鉄道事業許可を申請(七隈線:天神南~博多間)
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平成24年(2012)6月11日 | 国土交通大臣より鉄道事業許可 |
平成25年(2013)3月23日 | 交通系ICカード全国相互利用開始 |
平成26年(2014)2月12日 | 七隈線(天神南~博多間)起工式 |
主な展示資料
※は交通局所蔵 ☆は埋蔵文化財センター所蔵
構想から開業まで
- 福岡市総合計画書 昭和36年
- 地方鉄道事業免許状 昭和49年※
- 貫通石(室見トンネル) 昭和54年※
- ポスター(福岡市営地下鉄開業) 昭和56年
- 福岡市営地下鉄開業記念乗車券 昭和56年
広がる地下鉄
- ポスター(中洲川端呉服町開業) 昭和57年
- よかネットカード 平成時代※
- 福岡市地下鉄博覧会記念乗車券 平成元年
- 3号線導入計画のご案内 昭和7年※
- ヘッドマーク(博多駅開業) 昭和60年※
地下鉄工事と文化財調査
- 地下鉄と文化財第1号 昭和51年
- 藤崎遺跡出土土器 弥生時代☆
- 梅林遺跡出土土器 古墳時代☆
- 博多遺跡群出土陶磁器 平安・鎌倉時代☆
現在の地下鉄
- 誕生記念カード(はやかけん) 平成21年※
- 3000系車両模型 平成時代※
- 官兵衛ちかまる 平成26年※
- ローレル賞楯(3000系車両) 平成18年※
- 乗務員制服 平成時代※
参考文献
福岡市交通局編集・発行『福岡市高速鉄道建設史』(1990年)、福岡市交通局編集・発行『福岡市高速鉄道博多・福岡空港間建設史』(1995年)、福岡市交通局『福岡市地下鉄事業概要 令和2年度』(福岡市交通局総務課、2020年)