企画展示

企画展示室2 黒田記念室
文書のうらがわ

令和4年8月30日(火)~ 10月23日(日)

図1 足利直冬の裏書安堵(史料13)
図1 足利直冬の裏書安堵(史料13)

 ふだんの連絡のやり取りはLINE(ライン)やメールで事足り、手書きの手紙を書く機会はめっきり減りましたが、本展は手紙のウラ話です。

 手紙を書く時、通常、紙の表側に記入し、裏面は白紙となります。展示をする際にも、表の文言に注目し、多くは表面を展示します。しかし、裏側をみると、時に、端の方に線が引かれたり、何やら文字が書かれていたりする文書が散見されます。

◆墨引(すみびき)・端裏書(はしうらがき)

 紙に書かれた手紙は、奥(紙の左端)から端(はし)(紙の右端)に向かって巻き上げていきます。巻き上げると、文書(もんじょ)の端の裏側二折り分が露出することになります。紙の右端を下から中程まで細く切断し、これを帯にして折りたたんだ紙が広がらないように巻き付け結わえます。この封の仕方を切封(きりふう)といい、現在、封じ目に「〆(しめ)」と書くように封緘(ふうかん)の印(しる)しとして、切封の帯の上から線を引きます。これが墨引です(図2)。また、封紙(ふうし)(現在の封筒のように折りたたんだ手紙を包む紙)が省略される場合には、端裏に宛名や差出人の名前が記されます(図3)。あるいは、受け取った側で端裏に加筆する場合もあります。備忘のために受け取った年が書き加えられたり(図2)、本文の内容の趣旨や要約が書かれたりしました。

図2 端裏書と端裏切封墨引(史料5)
図2 端裏書と端裏切封墨引(史料5)
図3 端裏(図の左)に書かれた宛名と差出書(史料2)
図3 端裏(図の左)に書かれた宛名と差出書(史料2)
◆「宝印を翻(ひるがえ)す」~お札(ふだ)の裏に書く

 宣誓書の一種である起請文(きしょうもん)は、神社で発行される牛玉宝印(ごおうほういん)と呼ばれる護符(ごふ)を裏返して、その裏面に神仏に誓いを立てる文言や、あるいは誓約内容も含め全文を書くことが行われました(図4)。そこで起請文を書くことは「宝印を翻す」と表現されました。

図4 牛玉宝印の裏に書かれた起請文(史料8)
図4 牛玉宝印の裏に書かれた起請文(史料8)
◆「裏を破る」

 「裏を破る」といっても、紙を引き裂くわけではありません。土地の財産目録等で多数の土地が記載されている場合、その一部を売却するとなると、手許に残された土地についてはその権利証が必要となり、買主に渡すことはできません。そこで、売却した土地の権利を抹消するために、該当部分の裏側に売却した旨を加筆し、買主の権利を保護しました。この行為を「裏を破る」「裏を毀(こぼ)つ」と称しました。図5は、裏側に売却する3ヶ所の土地を書き上げ、「永代、宝菩提院(ほうぼだいいん)へ沽脚(こきゃく)し畢(おわ)んぬ。後証(こうしょう)の為に裏を破る者なり」と売却先を記し、後日の証拠のために「裏を破る」と記載されています。

図5 「裏を破る」(売却した土地の権利を抹消)(史料10)
図5 「裏を破る」(売却した土地の権利を抹消)(史料10)
◆「裏を封じる」

 訴訟等において訴人が提出した文書の内容を、幕府(ばくふ)や大名(だいみょう)の裁判機関等で確認したことを証明するため、受け取った側の担当者が紙の継目の裏側に花押(かおう)(サイン)を書き加えました。この行為を「裏を封じる」と呼びます。

◆裏書安堵(うらがきあんど)

 土地の権利の保障を求めた申請書の余白や裏面に、申請内容を認可する旨を記したものを外題(げだい)安堵や証判(しょうはん)と呼びます。南北朝の動乱期に九州で挙兵した足利直冬(あしかがただふゆ)(室町(むろまち)幕府初代将軍足利尊氏(たかうじ)の庶子)のもとには、多くの武士が参集しました。土地の保護を求める武士や寺社に対し、直冬は申請内容をそのまま認めることを申請書の裏側に書き(裏書安堵)、味方の拡大を図りました(図1)。

◆納品書の裏側に領収書を記す
図6 裏面に書かれた領収書(史料17)
図6 裏面に書かれた領収書(史料17)

 裏書安堵と同様に受け取った手紙の裏に返事を書いて相手に返送することがあります。図6は年貢(ねんぐ)の納入に際し提出された納品書の裏面で、年貢を受け取った東門寺(とうもんじ)政所坊(まんどころぼう)が数量を確認し、照合の印しとして表面の「以上」のかたわらに合点(がってん)を加え、裏面に確かに受け取った旨を記し、年貢の納入者に返却したものです。

 本展では、福岡市博物館が所蔵する中世文書を素材に、文書の「うらがわ」の世界を紹介します。裏面に記された内容の意味を考えることで、文書のもつ豊かな内容を読み解いていきます。(堀本一繁)

出品史料一覧
  史料名 時代 所蔵・史料群名
大友宗麟感状 (元亀元年・1570)4月28日付 館蔵(田尻文書)
毛利友重書状 (慶長5年・1600)10月6日付 館蔵・黒田家資料
成就坊永海契約状 天正8年(1580)2月26日付 館蔵・黒田家資料 東門寺古証文
宮野教心着到状 元弘3年(1333)7月20日付 館蔵・上妻文書
大友義鎮書状 (天文19年・1550)4月24日付 館蔵(田尻文書)
預所某書下案 永仁2年(1294)8月10日付 館蔵(王丸文書)
吉良元心置文 永禄6年(1563)8月15日付 館蔵・吉良文書
黒田氏家臣連署起請文 天正6年(1578)11月5日付 館蔵・黒田家資料
黒田氏家臣連署起請文 天正6年(1578)11月吉日付 館蔵・黒田家資料
10 西山参鈷寺当知行山城国寺領目録 応永7年(1400)正月18日付 館蔵・旧吉川観方コレクション 三鈷寺往生院文書
11 筑紫氏本領分坪付注文案 天文3年(1534)6月23日付 館蔵・筑紫家資料
12 六郎三郎くぼの名田数坪付 長禄4年(1460)3月27日付 館蔵・黒田家資料 東門寺古証文
13 足利直冬裏書安堵 貞和6年(1350)10月28日付 館蔵・田隅タネ資料
14 足利直冬裏書安堵 貞和6年(1350)11月25日付 寄託・勝福寺資料
15 大内義隆継目安堵状案 天文13年(1544)3月21日付 館蔵(王丸文書)
16 森田盛理契状 天文23年(1554)4月5日付 館蔵・須子家文書
17 与四郎注文并東門寺政所坊請取状 天文19年(1550)11月20日付 館蔵・黒田家資料 東門寺古証文
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