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企画展示

企画展示室3
考古学のキホン-古いか新しいかを知るには-

令和5年4月25日(火)~6月25日(日)

はじめに

 皆さんは「考古学」にどんなイメージを持っていますか?恐竜の化石、ピラミッド、埋蔵金?歴史に詳しい方からは、遺跡(いせき)や発掘などの言葉が聞こえてきそうです。

 考古学は、遺跡や出土品を通じて、歴史を考える学問のひとつです。過去の人びとが製作・加工・利用したあらゆるもの(これらを「考古資料」と言います)を研究の対象とします。考古資料を用いて研究をするためには、言葉でものごとが表現されている古文書(こもんじょ)や記録などとは異なり、まず、資料から情報(いつ、どのような材料を用いてどのような技術で製作し、どのように使ったのかなど)をひきだし、言語化するところから始めなければなりません。

 本展示では、考古資料から「いつ」をひきだす年代決定法―型式学(けいしきがく)と層位学(そういがく)―を紹介します。研究成果の背景にある方法論がわかると、なるほどと思うことも増えるのでは。ぜひ考古学をもっと楽しんでいただければと思います。

Ⅰ まずは分類して時間的な変化をつかむ―「型式学」

 考古学は、19世紀のヨーロッパで、誕生した学問です。古い物に対する関心やギリシア・ローマ時代の遺跡の研究をベースに、地質学や進化論の影響をうけて成立しました。考古学の基本となる研究法「型式学」は、大量の資料から情報を取り出して整理し、人びとに公開する展示活動のなかで生まれました。

 19世紀前半にコペンハーゲン博物館の学芸員として活躍したトムゼンは、武器や工具等の材質に注目して考古資料を分類し、石器時代から青銅器時代、鉄器時代と歴史がすすむと考えました。

図1 須恵器提瓶の型式組列
図1 須恵器提瓶の型式組列

 考古資料の分類方法をさらに発展させ、型式学を確立したのが、20世紀にスウェーデン国立歴史博物館で北欧の新石器文化を研究したモンテリウスです。彼の型式学では、まず、特定の種類の資料ごとに、ある特徴に注目して分類し、似ているものをグループ化します。このグループのことを「型式(けいしき)」と呼びます(図1)。いくつかの型式ができたら、型式同士で、形や装飾、作り方などを比較し、特徴のよく似たものが時期的にも近いと考えて、型式が連続して変化するように並べていきます(図1の場合、↓の部分が連続的に変化)。モンテリウスは、こうしてできた「型式組列(けいしきそれつ)」(図1)が、過去の人びとが使った道具の時間的なうつりかわりを示すと考えたのです。

Ⅱ 古いか新しいかを決めるのは?―「層位学」

 しかし、考古学者が机の上で連続的に変化するように並べた型式組列は、あくまで仮説にすぎません。図1でいえば、型式組列だけでは、AからDへと変化したのか、それともDからAへと変化したのかは、確定できないからです。

 そこで必要になるのが「層位学」的な検証です。新しい地層は古い地層の上に堆積する「地層塁重(ちそうるいじゅう)の法則」にもとづき、どの型式がどの層から出土したかによって、型式の先後関係を確認します。たとえば、発掘調査において、上の層から図1のDが、下の層からAが発見された場合、初めてD型式はA型式より新しいといえるわけです。また、層位学を応用すると、住居跡や井戸などの遺構(いこう)の重複関係からも型式組列の検証が可能です。図2は、ある住居が埋まった後に新しい住居が掘られた状況を示しています。この場合、後から設けられた住居跡から出土した資料の方が新しいといえます。

図2 住居跡の重複関係からわかる出土品の新旧関係
図2 住居跡の重複関係からわかる出土品の新旧関係

 このように、考古学者は、型式組列を遺跡での資料の出土状況に照らして、検証していくのです。

Ⅲ 過去の人びとのくらしに迫るために―「一括遺物(いっかついぶつ)」と「編年表(へんねんひょう)」

 墓や火災で焼けた住居跡など、発掘調査の結果、短い時間に埋まったといえる状況で発見された出土品を「一括遺物」といいます。一括遺物は、異なる種類の型式が同時に存在していたことを証明します。考古学者は、一括遺物を鍵として、複数の型式組列を組み上げ、ある時代の人々が使っていた道具のセットを明らかにしていきます。

 こうしてできあがった、昔の人々の道具のうつりかわりを示したものを「編年表」といいます(図3)。「編年表」があれば、発掘調査で見つかった考古資料の時期を知ることができます。編年表から出土品の時期がわかると、それらが出土した住居や井戸などの遺構の時期を判断できます。これを遺跡全体で行えば、その遺跡で生きた人びとのくらしのうつりかわりをつかむことができるのです。

図3 編年表
図3 編年表

 遺跡のどこで出土したのかという空間的な情報は、考古資料の価値を左右する重要な要素です。考古学者は、遺跡で重要と思われるものを発見しても、すぐに動かしたりすることはありません。あとで検証できるように、写真や図面など記録をとらねばならないからです。

おわりに―考古学の可能性と限界

 考古学の基本は、形式学と層位学に基づいて、道具のうつりかわりを把握することです。道具のうつりかわりの背景には、つくる技術の変化だけでなく、機能や使用方法、役割の変化があると考えられます。したがって、これらを研究することにより、技術史だけでなく、道具が使われた場面―農耕や狩猟(しゅりょう)、漁労(ぎょろう)―の変化に迫ることができます。さらに、ある型式の分布範囲は、その型式の道具をつくり使った人々の活動範囲と考えられることから、これらを比較することによって、集団同士の関係などをつかむことも可能となります。考古資料を型式分類し、時系列に並べることから、歴史を復元する研究が始まるのです。

 一方で、考古学では明らかにすることが難しいこともあります。たとえば、祭祀(さいし)に使われた道具から人びとの精神世界をさぐるには限界があります。また、考古資料だけでは、ある特定の歴史上の人物の行動を復元することは不可能です。

 そういった意味で、文献史学や文化人類学などの研究成果と合わせて総合的に歴史を考えることが重要になります。

(松尾奈緒子)

図3出典 京都帝国大学文学部考古学教室編1943年『大和唐古彌生式遺跡(やまとからこやよいしきいせき)の研究」第六十六圖(ず)に加筆

展示資料(出土地または資料群名)

〇館蔵資料
石匙・石鏃(山崎明資料)/勾玉(石井忠資料)/須恵器提瓶(今富徳男資料)/勾玉・磨製石斧・須恵器𤭯(重藤博美資料)/石庖丁・須恵器提瓶・勾玉(原田富三郎資料)
〇福岡市埋蔵文化財センター所蔵
三稜尖頭器(香椎A遺跡)/弥生土器 丹塗壺(伝城ノ原)/土師器片口鉢(姪浜遺跡)/下駄(田村遺跡)/炭化大豆(雀居遺跡)/糞石(板付遺跡)/縄文土器 深鉢(今山遺跡・大原D遺跡)/銅鏃(元岡・桑原遺跡群)/銅剣(岸田遺跡)/鉄鏃・圭頭大刀(元岡G1号墳)/須恵器提瓶(柏原A2号墳・徳永アラタ3号墳)/須恵器坏蓋・坏身(梅林古墳・羽根戸G25号墳・堤ケ浦12号墳・広石南A1号墳・飯氏B14号墳)/須恵器𤭯(羽根戸南E11号墳・七曲5号墳・吉武G3号墳)/新羅土器 広口壺(三郎丸B3号墳)/土師器山陰系鼓形器台(野方久保遺跡)/線刻礫(曰佐遺跡)/三角縁神獣鏡・硬玉製勾玉・碧玉製管玉・ガラス小玉(那珂八幡古墳)
博多遺跡群95次調査 包含層資料
那珂遺跡群62次調査 SX28出土資料
那珂遺跡群62次調査 SD32出土資料
香椎B遺跡火葬墓8014出土資料

福岡市博物館
〒814-0001 福岡市早良区百道浜3丁目1-1
TEL:092-845-5011 FAX:092-845-5019

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