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企画展示

企画展示室2
市美×市博 黒田資料名品展Ⅳ 藩主夫人が愛した文物

平成29年8月29日(火)~11月5日(日)

女性から見た黒田家の家宝の歴史
6.塩竈・松島図屏風(右隻・部分)
6.塩竈・松島図屏風(右隻・部分)

 福岡市美術館と当館がそれぞれ所蔵する、福岡藩主ゆかりの「黒田資料」を併せて活用するシリーズ展示の4回目は藩主夫人の遺愛品がテーマです。

 黒田家に輿(こし)入れした女性たちゆかりの品々といえば、まず婚礼調度が思い浮かびます。これらの道具は婚礼に際して新調され、通常は実家の家紋と嫁ぎ先となる黒田家の藤巴(ふじどもえ)紋が入れられていました。例えば左の写真にある蒔絵箪笥(まきえだんす)【5】には丸(まる)に三階菱(さんかいびし)と藤巴紋が入っていますが、前者は小倉藩主小笠原(おがさわら)家の家紋です。このことによってこの品が小笠原家出身の3代光之(みつゆき)夫人・市(いち)(宝光院(ほうこういん))のものということが分かります【系図参照】。

 しかし、輿入れの時に移動した道具類は全てが新品とは限りません。中には親から子へ、祖父母から孫へと形見分けとして譲られている品も含まれていることがあります。また、贈り物や収集品として嫁ぎ先で手に入れる品もあります。大名家の夫人が所有する道具類の由緒は、とても複雑な要素が絡み合っているといえるでしょう。

5.竹長春花文蒔絵箪笥・源氏物語
5.竹長春花文蒔絵箪笥・源氏物語

 ただ、そうした複雑な由緒が記録としてしっかりと残されていることは稀です。黒田家の場合も家宝の由緒については『黒田家御重宝故実(くろだけおんじゅうほうこじつ)』【1】という本がありますが、ここに収録されているのは、権力者からの手紙、戦場で使った武具など同家の武功を証明する品々が中心です。また、黒田家にゆかりのある書画や茶道具の由緒を記した『数寄道具故実(すきどうぐこじつ)』についても、女性にゆかりのあるものはほとんど書かれていません。

 したがって、女性の道具の由緒を知るためにはさまざまな資料から手がかりを得る必要があります。その中でも有力な情報を含むのが遺言類です。例えば4代綱政(つなまさ)夫人の六(ろく)(呂久・心空院(しんくういん))の「遺物目録」【7】には「源氏物語系図(げんじものがたりけいず)」【8】と「松嶋御屏風(まつしまおんびょうぶ)」【6】が書かれています。

 さらに、これは遺言ではないのですが、6代継高(つぐたか)夫人の幸(こう)(圭光院(けいこういん))の言行録『淑徳録(しゅくとくろく)』には、家宝の移動に関する記事が出てきます。そこには、六(心空院)の母が仙台(せんだい)藩主伊達(だて)家の出身で、源氏物語系図を含めた六の所持品は母から伝えられた品であること、六が立花(たちばな)家から黒田家に嫁ぐにあたって大藩の夫人に相応しい道具を揃えさせようとして、母がそれらの品々を六に贈ったことが記されています。なぜ、柳川(やながわ)藩主立花家から嫁いだ六が九州から遠く離れた松島を描いた屏風を持っていたのか、『淑徳録』には明記されていませんが、もしかすると仙台出身の母から贈られた品々の中の1つなのかも知れません。

 このように伝来がある程度分かるものは非常に少なく、多くは時代の経過とともにその由来が分からなくなってしまうものが大半です。しかし、藩主夫人が愛した文物には、母から娘へ、さらにその孫へと連綿と続く母系の歴史が詰まっていることもあります。女性たちが受け継いでいく家宝の歴史、藩主夫人が愛した文物を調べる醍醐味(だいごみ)と言えるでしょう。
(宮野弘樹)

黒田家略系図
6.塩竈・松島図屏風(上=右隻、下=左隻)
6.塩竈・松島図屏風(上=右隻、下=左隻)
展示資料一覧(資料名/時代/作者等/員数)

1 黒田家御重宝故実/享保元(1716)年写/高田十助写/1冊
2 大凉院像/江戸時代後期(19世紀)写/青柳種信写/1枚
3 三葉葵紋蒔絵櫛/江戸時代前期(17世紀)/大凉院か梅渓院所持/1枚
4 百八字形/平安時代(10世紀)/伝藤原佐理、宝光院所持/1巻
5 竹長春花文蒔絵箪笥(源氏物語入)/江戸時代初期(17世紀)/宝光院所持/1基
6 塩竈・松島図屏風/江戸時代前期(17世紀)/心空院所持/8曲1双
7 遺物目録/江戸時代中期(18世紀)/心空院所持分/1通
8 源氏物語系図(重要文化財)/鎌倉時代(12~13世紀)/伝・九条良経/1巻
9 淑徳録/江戸時代後期(18世紀)/手塚雪山/1冊
10 百人一首抄/江戸時代後期(18~19世紀)/真含院/1冊
11 鶏に藤図/江戸時代後期(18~19世紀)/円山応瑞画、香台院所持/1幅
※1・7は館蔵・黒田資料、2・9は館蔵、他は全て福岡市美術館蔵・黒田資料です。

主要参考文献
川添昭二・福岡古文書を読む会校訂『新訂黒田家譜』一~七(文献出版、1982~1987年)/福岡市史編集委員会編『新修福岡市史 資料編 近世1 領主と藩政』(福岡市、2011年)

福岡市博物館
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