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No.078

美術・工芸展示室

ふくおかの文化財展2-鎌倉・室町時代の仏像-

平成7年3月28日(火)~9月24日(日)

木造釈迦如来坐像(部分) 承天寺
木造釈迦如来坐像(部分) 承天寺

 日本の伝統的彫刻は寺院や神社に安置される仏像や神像に見ることができます。それらは人々の信仰とともに古くから多くの像が作られましたが、彫刻の様式、技法などで制作時代を区別することができます。本展示では福岡市とその近郊にある鎌倉時代から室町時代にかけて制作されたと考える仏像を展示しました。

 鎌倉時代の彫刻の特徴は力強い量感と張りのある肉体表現で、それは写実的(しゃじつてき)と言われるように人間の表情や体つきを彫刻に取り入れたものもあり、着衣も強く波打つように表現されることが多いようです。技法のうえでは水晶を目の部分に使った玉眼(ぎょくがん)によって、より人間らしい表現を作り出しています。これらは天才的仏師(ぶっし)(彫刻家)運慶(うんけい)らの出現によって生み出された今までにないスタイルでした。また、それを推進したのは新しい権力の中心となった武士の勢力でもありました。

 しかし、鎌倉時代の彫刻のスタイルは実際にはさまざまです。彫刻史の上で「藤末鎌初(とうまつれんしょ)」という言葉があるように、前の時代の藤原時代に盛んになったいわゆる「定朝(じょうちょう)様式」と呼ばれる仏師定朝が完成させた穏やかで円満な表情の仏像に似せた形式の彫刻も見られます。運慶そして快慶(かいけい)らいわゆる慶派(けいは)仏師の中心仏師の彫刻がたいへんすぐれていたため、それに続く仏師たちはそのスタイルを追うばかりで、世俗的でくどくどとした、力量に乏しい彫刻を作ることも多く行われたようです。

 そのほか慶派以外の伝統的仏師として、院派(いんぱ)、円派(えんぱ)と呼ぶ「院」や「円」の字を名に冠した仏師たちがいました。彼らは平安時代から造仏に携わっていましたが、慶派の影響を大きく受けながら伝統的あるいは独自のスタイルを作り出していったようです。

 本展示では福岡市を中心とするこの地域で、そうした日本彫刻の重要な面を知ることができる仏像を展示しました。多くは奈良、京都などで作られた都ぶりの仏像です。鎌倉時代から室町時代にかけての彫刻のすぐれた点、多様な面を観賞して下さい。

 1 重要文化財 木造釈迦如来及両脇侍像(もくぞうしゃかにょらいおよびりょうきょうじぞう)

3躯/福岡市博多区博多駅前 承天寺(じょうてんじ)/ヒノキ材 寄木造/像高(釈迦)86.9センチ (普賢)119.7センチ (文殊)119.7センチ

1 木造釈迦如来及両脇侍像 承天寺
1 木造釈迦如来及両脇侍像 承天寺

 中央に結跏趺坐(けっかふざ)(足をももの上に上げて座る)して、右手は施無畏(せむい)(恐れを取り去る)、左手は与願(よがん)(願いをかなえる)の印相(いんそう(ぞう))(手の形)を結ぶ釈迦如来像、その両脇に立った姿の普賢菩薩(ふげんぼさつ)像(向かって右)、文殊(もんじゅ)菩薩像(同左)が並びます。3尊ともに衣の浅い彫刻や穏やかな表情の顔つきなど藤原時代の仏像の雰囲気を残しています。しかし、釈迦如来の丸く張りのある顔や張り出した胸、強く波打った衣の線に鎌倉時代の新しい作風を既に受入れたあとがうかがえます。古い様式を踏まえて、整った姿を丁寧に彫刻した仏像です。承天寺は京都・東福寺(とうふくじ)を開いた円爾(えんに・(じ))(弁円(べんえん))が仁治(にんじ)2年(1241)宋より帰朝後、中国人の商人謝国明(しゃこくめい)と太宰少弐武藤(だざいしょうにむとう)氏の援助によって開いた禅宗寺院です。


 2 重要文化財 木造聖観音坐像(もくぞうしょうかんのんざぞう)

1躯/福岡市城南区油山 油山観音正覚寺(あぶらやまかんのんしょうかくじ)/ヒノキ材 寄木造/像高 79.2センチ

2 木造聖観音坐像 油山観音正覚寺
2 木造聖観音坐像 油山観音正覚寺

 高く結い上げられた髻(もとどり)と強調された胸部や腰部のくびれ、高く波打った衣など鎌倉時代以降の彫刻の特徴がよく表れています。しかし、顔だちがたいへん美しく整った、姿勢の良い像で、1本1本彫り出された髪の毛筋などていねいに彫刻されています。ただ衣の褶(ひだ)がややくどいかと思われるようにうねっていたり、少し固い感じの腕のかたち、指の先まで彫刻した膝上の足首先などをどのように見るか制作時代の想定が課題となる像です。油山観音正覚寺は承天寺と関係の深い寺で、開山も円爾の弟子平田慈均(へいでんじきん)です。油山は仏教の盛んな場所で、福岡県西部の多くの寺院の開山となっている清賀上人(せいがしょうにん)が椿を植えた所と伝え、鎌倉時代には浄土宗鎮西派(ちんぜいは)の弁阿弁長(べんあべんちょう)(聖光上人(しょうこうしょうにん))がここで修業したことが知られます。


3 木造阿弥陀如来立像 福岡市
3 木造阿弥陀如来立像 福岡市

 3 重要文化財 木造阿弥陀如来立像(もくぞうあみだにょらいりゅうぞう)

1躯/福岡市(福岡市中央区大濠公園福岡市美術館保管)/ヒノキ材 寄木造/像高 97.8センチ

 いわゆる三尺阿弥陀如来像と呼ばれる大きさです。すっきりと流れるような衣文、肉体の凹凸を強調しない体つき、伏し目がちで穏やかな表情の顔に藤原時代の仏像の面影が残っています。しかし、目を玉眼に作ることをはじめ衣文の波が浅めであるが強く波打つことなどが確実に鎌倉時代の到来を告げています。本像は東光院(とうこういん)に旧蔵されていた仏像です。東光院は堅粕薬師(かたかすやくし)とも呼ばれ、眼病を治す祈願が盛んでした。現在寺は廃され、仏像は福岡市に寄贈されています。福岡市美術館にはほかに薬師如来(やくしにょらい)像と十二神将(しんしょう)が2組(どちらも重要文化財で、1組はほかの寺からの客仏)ほか仁王(におう)像などがあり、当寺のすぐれた彫刻を数多く見ることができます。

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(入館は17時まで)
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休館日
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