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No.200

美術・工芸展示室

チベット仏教コレクション1-堂内の荘厳(しょうごん)-

平成14年4月2日(火)~9月29日(日)






ダーキニー/密教修行のパートナー


トゥンチェン/法会の開始を告げるラッパ

 現在、中華人民共和国に属するチベットは、ヒマラヤ山脈の北側に広がる標高3000メートル以上の大高原地帯を中心とする地域です。そこには7世紀に初めて統一王朝が築かれ、それ以来チベットはひとつのまとまりとして独自の歴史を刻んでいきました。
 この長い歴史をもつチベットの文化の根底をなすのがチベット仏教であり、その中心となるのが密教(みっきょう)です。密教は4世紀から12世紀のインドにおいて、ヒンドゥー教の影響を受けて発生、展開した神秘主義的な仏教の流れです。
 密教はそれまでの顕教(けんきょう)(密教以前の仏教)とは異なり、悟りを得るために修行の妨(さまた)げとされてきた人間本来の欲望や感覚を逆に肯定したところに特色があります。知性と感性の双方を利用することで、一気に世界と自己の体験的合一(即身成仏(そくしんじょうぶつ))を目指そうとしたわけです。
 密教はインドから遠く離れた日本にも、既に奈良時代には断片的なかたちでもたらされています。この頃作られた仏像の中に多くの手や目をもつ異様な姿のものが含まれているのはそのためです。そして9九世紀には空海(くうかい)や最澄(さいちょう)ら入唐僧(にゅうとうそう)によって、その当時中国でおこなわれていた密教が体系的なかたちで伝えられ、真言宗や天台密教がおこりました。
 いっぽうチベットには仏教は7世紀に伝来し、密教は8世紀にインド人の大行者パドマサンバヴァによって伝えられました。その後チベット密教は、常にインドの進んだ研究成果を吸収しながら発展し、13世紀初頭にはイスラム教の侵入によって滅んだインド仏教の知的遺産を事実上継承しました。
 また、当時ユーラシア大陸を席巻(せっけん)したモンゴル王室の庇護のもと、チベット密教は未曾有(みぞう)の繁栄を謳歌し、16世紀以降は観音菩薩の化身(けしん)とされる歴代ダライ・ラマが、300年の長きにわたってチベット全土を統治しました。
 このようにみると、チベット密教と日本の密教はともにインド仏教から生まれた兄弟のような関係にあるといえます。そのため、教義や仏像の種類には共通するものが少なくありません。
 しかし、本展示を見ればわかるように、チベット仏教寺院にまつられる仏像にはセクシーな女性の尊格があり、タンカと呼ばれる仏画には男女が抱き合った秘密仏が描かれるなど、日本には存在しない(存在しても全く姿が異なる)仏像がたくさん含まれます。
 このことは、しばしばチベット密教に対する誤解の原因になります。しかし本当のところは、密教が人間ならだれもが持つ、感覚や欲望に目を向け、そのエネルギーを良い方向に向けるという考え方を、性的なイメージを借りてわかりやすく表現したものに他なりません。
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ところで、今回展示したコレクションは、平成11年度に福岡県篠栗(ささぐり)町にある南蔵院(なんぞういん)から、福岡市博物館に寄贈されたものです。その内容はツクラカンと呼ばれるチベット仏教寺院の本堂を再現したもので、1983年に開催された、『大チベット展』(主催/毎日新聞)のために制作されたものです。
 全体のデザインはインドのダージリンにあるカンギュル僧院をモデルにし、教義的な指導はチベット仏教ニンマ派の高僧ケツン・サンポ師があたりました。また、実際の制作を担当したのは現在インドやネパールに住む職人で、これらの人々は伝統的にチベット仏教寺院の調度品制作に携わってきた専門的職人とその弟子たちです。
 コレクションは総数400点以上を数え、主体をなす大型の本尊壇をはじめ、多数の仏像、経典、仏具、楽器、仏画、曼荼羅(まんだら)などから構成されています。これらを組み立てることにより、チベット仏教寺院の雰囲気をそのままに体験することが可能です。
 展示室に一歩足を踏み込めば、そこはまさにチベット僧が祈りを捧げ瞑想をおこなう信仰の世界と異なりません。東アジアの西と東でそれぞれ独自の発展を遂げた密教の違いに思いをめぐらしながら、ぜひ深遠なる神秘の世界を体験してください。
(末吉武史)

休館日

開館時間
午前9時30分~午後5時30分
(入館は午後5時まで)
休館日
毎週月曜日
※月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館
※年末年始の休館日は12月28日から1月4日まで
pressrelease

Facata(博物館だより)

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