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No.204

黒田記念室

博多祇園山笠展11

平成14年6月11日(火)~7月14日(日)

―新収蔵の山笠図―

今年の展示は、本館が収蔵している黒田家旧蔵の山笠(やまかさ)図とあわせて、近年収集した博多祇園(はかたぎおん)山笠図や、関連の文書資料などを紹介します。黒田家旧蔵の山笠図が、嘉永(かえい)期(1848~54)以降のものが多いのに比べ、新たに収集したものの中には、江戸時代のうち、19世紀前半の文政(ぶんせい)~天保(てんぽう)期(1818~43)のものが含まれています。現在、この時期の山笠図は残されているものが大変少なく貴重です。では、文政~天保期の博多祇園祭や山笠はどのようなものだったのでしょうか。祇園祭礼を行う櫛田神社に残る「山笠記録」から、いくつかエピソードを拾ってみましょう。


御用絵師上田氏と惣吉(三苫主清)


山笠図 江戸時代

 文政元(1818)年、博多の町に頼まれて、藩主の上覧にいれる山笠図〈本図(ほんず)〉を仕上げていた藩御用絵師の上田氏が病気となり、彼の門人で三苫主清(みとましゅせい)と名乗り、上田氏に渡す下絵(したえ)図を書いていた惣吉が代役を頼まれています。従来、博多では、町々の造る山笠の下絵を惣吉に頼んで描いてもらい、それを町奉行所に差出して許可を得たのち、その下絵を上田氏に渡し、上田氏が五月末までに本図を仕上げ、それを町奉行所に提出する、ということになっていました。さて、この惣吉が町々に頼まれて、下絵書きに撰ばれていた理由は、かれが多くの弟子をかかえて、当番町の山笠を飾付ける、山の造立(つくりた)ての仕事をしていたからです。
 天保10(1839)年、惣吉(次の代の英之(えいし)か)は、山笠造りを「家職(かしょく)」とすること、すなわち博多全体の山造りの棟梁(とうりょう)になることを、町奉行所に願い出ました。この願いは、以前から何度もなされていたようです。しかし、これは他の山笠造りの者との自由な競争があったほうがよいと許可されませんでした。町々の言い分は、今でさえ惣吉の飾りが主流なのだから、特に博多全体の棟梁にする必要はなく、惣吉が励めば自然と彼に依頼がくる、というものでした。


山笠入作法改めと先山・後山の喧嘩

 文政5(1822)年には櫛田神社内への山笠入りの作法、とくに桟敷(さじき)(貴賓(きひん)席)へのあいさつがよくないとして決まりが改められています。まず一番山は今までどおり、おめでたい作法として貴賓席のまえに必ず据え、舁き歌を三度歌うが、二番山から六番山は、桟敷前では舁きながら歌ってすぎることになりました。また、台上がりの者も、桟敷前では台を降りていたのが守られなくなっているため、台の上で平伏するようになりました。舁き山がスピード化していく過程なのでしょうか。これにあわせて、この時期には、前の山を後ろの山が追いかけることが盛んに行われたようです。とくに接近しすぎる結果、喧嘩(けんか)となることもありました。魚町流(うおまちながれ)の山笠が後ろからきた山が近付いてきて大混雑となり、中島町(なかじままち)に迷惑をかけた例などが有名です。このほか流の中でも、町々同士の喧嘩もあり、流れ舁きの加勢(かせい)に行かず、腹いせに他の流れを加勢することもありました。



安政3年 山笠図 三苫主精

天保の博多祇園山笠のからくり

 この時期の山笠は、絵図どおりに大変華やかな姿をしており、当番町がその造立てにかける費用はたいへんなものでした。天保時代の中ごろには、11代藩主になった黒田斉溥(なりひろ)も博多で山笠の上覧(じょうらん)を行っています。また他国や近隣からの見物客も、このときばかりは博多にたくさん訪れます。有名な本草学者内海蘭渓(ほんぞうがくしゃうつみらんけい)は、死んでも山笠が見たいと、あらかじめお墓を御供所(ごくしょ)町のお寺に求めていたほどでした。しかし同時に、世上は凶作や米価高騰(こうとう)がおこり、山笠の当番町に助成がなされたこともありました。
 ところが、山笠は実は14、15日に実際に舁かれる時は、前を進む山笠の追っかけやすくするため、飾り付けられた指物(さしもの)、館(やかた)など重たい付属物を取り除け、背も低めに改造して軽くしていたようです。これは町奉行所に提出した絵図と違うとして問題になりました。第一そのようなことをするならば、初めから質素に作るようにと、町奉行所に指導されています。その後、幕府の天保改革(かいかく)の影響で華美が禁止され、質素な山を造るように厳しく命ぜられました。また、自分の流れの当番山を加勢せず、他の流れを舁くことも禁止されるなど、かなりおとなしくするように指導されています。いずれにせよ、文政から天保時代の終わりごろの、山笠を担ぐ人々の熱気が伝わってくる話です。
(又野誠)

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