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No.222

考古・民俗展示室

中国の古代印章~金印を取り巻く印章たち~

平成15年4月29日(火)~7月6日(日)

 わたしたち日本人の生活の中で印鑑の果たす役割は大きく、不可欠な道具のひとつです。その種類は公印から会社印・実印・銀行印・認印などがあり、さまざまな契約や組織・個人を証明する重要な証(あかし)として使われています。
 この印鑑の基となった印章の起源は、紀元前3,500年ころメソポタミア文明の繁栄したチグリス・ユーフラテス川流域にあり、宗教的な魔除けの護符として使われたスタンプ形の印章に由来しています。しかし、本格的な印章は、紀元前3,000年ごろにシュメール人の使用した円筒印章に始まると云われています。その目的は財宝などの貴重な品々を蓄えた容器を封印することでしたが、やがて署名の代わりのサインとして使われ所有権を示すようにもなります。この印章に刻まれた幾何学模様や動物・植物の文様には、一種の神秘的な魔力があると考えられ、封印を破ると神罰が当たると信じられて所有者以外から秘密や財産が守られたのです。


蛇鈕金印「漢委奴國王」

 この印章が、西はエジプトからローマへ伝わり、重要文書に蝋で封をする封蝋として使われるスタンプ型の印章となり、また東はシルクロードを経て中国へ伝えられ、方形や円形の印となって押印して封をする封泥として使われ、独自の印章文化を開花させます。
 この古代中国の多様な印章の世界から「漢委奴國王(かんのわのなのこくおう)」の金印に凝縮された対外交流の歴史を紹介します。


古代中国の印章


駝鈕銅印「漢盧水佰長」

 シルクロードを経て中国へ伝えられた印章は、戦国時代の古ジ(こじ)に始まります。はじめは官・私印とも古ジと云っていましたが、秦(しん)代に皇帝の印だけを璽(じ)と称し、その他の官印や私印は印、将軍の印は章と呼ばれました。
 これが漢の時代に、皇帝を頂点とする国の制度として整えられ、官印は、政治や軍事の官職によって材質や鈕形(ちゅうけい)、印文などが細かく決められました。大きさは一寸(約2.3センチ)四方で、この鈕には長さが一丈二尺(約2.8メートル)の絹紐を通し、常に身に帯びて文書などの機密を守る封泥に押印していました。また、紐(綬)の色も官位によって区別されています。
 魏・呉・蜀の三国時代以降も漢の印章制度は受け継がれますが、紙の普及につれて次第に封泥印から白文・朱文などの捺印へと変わり、唐の時代には大きさが大きくなっていきます。


漢の外交政策と印章


蛇鈕金印「テン王之印」


馬鈕銅印


辟邪鈕銅印


亭鈕銅印

 漢の印章制度は、国を治める政治体制の根幹であり、同時に重要な外交政策でもありました。そのため皇帝は虎鈕(こちゅう)の玉璽(ぎょくじ)、皇太子や列侯・丞相・将軍などは亀鈕(きちゅう)の金印、中級官吏は亀鈕銀印で下級官吏は鼻鈕(びちゅう)銅印とされ、綬(じゅ)(紐(ひも))の色も皇帝の朱綬(しゅじゅ)から黄綬まで細かく決められていました。
 一方、周辺の異民族の支配者たちにも内臣と同じように官爵位(かんしゃくい)と印綬を与えて皇帝を頂点とする政治体制の中に組み入れ、その脅威を取り除こうとしました。そのため強大な匈奴(きょうど)族の王には、客臣として皇帝と同じ「匈奴単于璽(きょうどぜんうじ)」を、西域の烏孫(うそん)族などには列侯に準じて金印紫綬(しじゅ)を与え、その臣下たちにも内臣に準じた銀印や銅印を下賜することもありました。また、異民族に与えた印章の鈕には、内臣の印にはみられないその民族を象徴するラクダやヒツジ・ヘビなどを象っています。
 「漢委奴國王」の金印に象られたヘビの鈕は、湿潤な稲作地帯に生息するヘビを象徴したものとも云われています。


「漢委奴國王」の時代

 天明4(1784)年の春、博多湾に浮かぶ志賀島から「漢委奴國王」の金印が発見されました。これが『後漢書東夷伝(ごかんじょとういでん)』に「倭奴国奉朝貢賀・・・光武賜以印綬」と記されている金印で、倭の奴国王が後漢の光武帝からもらった日本最古の印章です。はるか東海の小さな国の首長に金印を与え、王の称号を許したことは異例なことで、漢王朝再興後の東アジアの国際情勢を窺うことができます。この蛇鈕の金印は他に出土例がなく真贋(しんがん)論争が長く続きました。しかし、1956年に中国雲南省の漢墓から前漢の武帝が紀元前109年にテン族の王に与えた蛇鈕の金印「テン王之印(おうのいん)」が発見されて真物説が確定的になりました。また印文も三宅米吉博士が提唱された「かんのわのなのこくおう」との読み方が定説となっています。
 この金印のほかに邪馬台国(やまたいこく)の女王卑弥呼(ひみこ)が、魏の皇帝から「親魏倭王(しんぎわおう)」の金印紫綬を、また使節の正使と次使が銀印青綬を与えられ、その子壱与(いよ)の正使と次使が銀印青綬(せいじゅ)を与えらたと記録にあり、今後いずこかの遺跡から発見されるかも知れません。
(小林義彦)

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