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No.226

黒田記念室

能面の世界4-平家物語の世界-

平成15年7月23日(水)~9月21日(日)

◆壇(だん)ノ浦(うら)の戦い前後


12. 痩男


13. 三日月


14. 怪士


15. 景清


16. 若女

 讃岐(さぬき)の屋島(やしま)に追われた平家。もはや滅亡は時間の問題です。さて、『平家物語』本文ではわずかしか登場しない脇役の背景を、たくましく想像して作られた能があります。壇ノ浦の合戦のおよそ半年前、源氏と平家は備前(びぜん)の藤戸(ふじと)で戦をしますが、その際、源氏の武将・佐々木盛綱(ささきもりつな)は、地元の漁師から馬で渡れる浅瀬を聞き出し、口封(くちふう)じのため漁師を殺害します。能『藤戸』では、この漁師の存在をクローズアップされています。前半では、漁師の母が子供を殺された悲しみを訴え、後半では漁師の幽霊が登場し、無念さと苦しさと切々と語ります。漁師の霊に痩男(やせおとこ)(No.12)、漁師の母には曲見(しゃくみ)(No.11)。曲見の面は、子を想って物狂(ものぐる)いのようになる母の役によく用いられる面です。
 元暦(げんりゃく)2年3月24日、壇ノ浦の合戦において平家はとうとう完全に敗北します。安徳天皇(あんとくてんのう)ほか平家の多くの武将、女房たちが波間に消えていきました。この戦いで最後まで立派だったのは平知盛(たいらのとももり)でした。三日月(みかづき)(No.13)、怪士(あやかし)(No.14)は、ここではともに知盛をあらわします。知盛は、戦の始まりには大音声(だいおんじょう)で一門を奮い立たせ、戦の終わりには「見るべき程のことは見つ。」と自ら海に身を沈めます。平太にも似て力強い三日月は、知盛最期の有り様を能にした『碇潜』に用いられます。能の世界の知盛には、もう一つの性格があります。死してなお義経への敵愾心(てきがいしん)を燃やす怨霊(おんりょう)としての性格です。壇ノ浦で平家を滅ぼした義経は、同じ年の冬、頼朝との不和から西国へ落ちる羽目になります。『舟弁慶(ふねべんけい)』では、摂津(せっつ)・大物(だいもつ)の浦(うら)から漕(こ)ぎ出(い)でた義経一行の舟の前に平知盛の怨霊が海中から現われ、薙刀を振るって襲いかかってきます。怪士は三日月より凄惨(せいさん)な感じが強く、怨霊としての知盛にふさわしいでしょう。
 『平家物語』の能では、この世の修羅(しゅら)を目(ま)の当たりにし、諸行無常を痛感しながら静かに余生を送る人々も描かれます。能『景清(かげきよ)』は平家の武将上総介(かずさのすけ)景清の余生。『平家物語』では、あまり大きく扱われない景清ですが、能の世界では、頼朝の暗殺にも失敗して日向に流され、源氏の世を見るのは忍びないとして自ら盲目となった琵琶法師(びわほうし)として語られています。景清の面(No.15)は、皺こそあるものの顔はいかつく、口髭と顎髭が植毛であらわされ、老いの中にも失われることのない勇将の威風を感じさせます。
 清盛の娘・安徳天皇の母、建礼門院(けんれいもんいん)の余生を題材にするのは『大原御幸(おはらごこう)』。壇ノ浦後の建礼門院については、『平家物語』「灌頂巻(かんじょうのまき)」につぶさに語られています。大原(おおはら)の寂光院(じゃこういん)で、安徳天皇をはじめ一門の冥福(めいふく)を祈る建礼門院のもとへ後白河法皇が訪れます。建礼門院は法皇を相手に、自らの数奇(すうき)な生涯を六道輪廻(ろくどうりんね)になぞらえて語ります。この建礼門院の往生をもって『平家物語』はフィナーレを迎えるのです。ここでは、建礼門院に用いられる面として若女(わかおんな)(No.16)を挙げておきましょう。舞台では、花帽子(はなのぼうし)(巾広の絹布)を着け、尼であることをあらわします。『大原御幸』は、『定家(ていか)』の式子内親王(しきしないしんのう)、『楊貴妃(ようきひ)』の楊貴妃とともに、主人公が高貴な女性で気品の高さが求められるところから、三婦人の能と言われています。

(杉山未菜子)

◆出品目録
1 小面(こおもて) 江戸時代
2 小面(こおもて)  焼印「天下一若狭守」 江戸時代
3 頼政(よりまさ) 焼印「天下一是閑」 桃山時代
4 小飛出(ことびで) 焼印「出目庸久」 江戸時代
5 三光尉(さんこうじょう) 焼印「天下一友閑」 江戸時代
6 十寸髪(ますがみ) 江戸時代
7 中将(ちゅうじょう) 焼印「児玉近江」 江戸時代
8 今若(いまわか) 焼印「出目庸久」 江戸時代
9 源氏(げんじ) 焼印「天下一友閑」 江戸時代
10 平太(へいた) 江戸時代
11 曲見(しゃくみ) 江戸時代
12 痩男 (やせおとこ) 江戸時代
13 三日月(みかづき) 焼印「出目洞白」 江戸時代
14 怪士(あやかし) 江戸時代
15 景清(かげきよ) 焼印「天下一満喬」 江戸時代
16 若女(わかおんな) 江戸時代
17 紫地枝垂桜文様長絹(むらさきじしだれざくらもんようちょうけん) 江戸時代
18 白地鱗文様法被(しろじうろこもんようはっぴ) 江戸時代

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休館日

開館時間
9時30分~17時30分
(入館は17時まで)
※7月22日〜8月26日の金・土・日・祝日は20時まで開館(入館は19時30分まで)
休館日
毎週月曜日
(月曜が祝休日にあたる場合は翌平日)
※年末年始の休館日は12月28日から1月4日まで

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