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No.230

美術・工芸展示室

南蔵院寄贈 チベット仏教コレクション 4-僧院の生活-

平成15年9月30日(火)~平成16年3月28日(日)

 チベットはヒマラヤ山脈とその北側に広がる平均標高3,000メートル、約260万平方キロメートルの広さをもつチベット高原を中心とした地域です。荒涼とした厳しい自然が広がるこの地には、チベット族と呼ばれる人々が古くから生活し、独自の歴史と文化を育んできました。
 このチベットの文化を代表するのがチベット仏教です。その最大の特色は「性」を含めた人間の感覚を肯定する密教的性格であり、それは父母仏(ふもぶつ)と呼ばれる官能的な仏(ほとけ)の姿に典型的にあらわれています。また、同時に教義の側面からみると、ラマ(師匠の僧)を仏と同じように敬うラマ至上主義も、もう1つの際だった特色といえるでしょう。チベット仏教を近年まで一般に「ラマ教」と呼んでいたのもそのためです。
 シリーズ4回目となる今回は、チベット寺院とそこで暮らす僧侶の生活を取り上げます。ラマをはじめ多くの僧侶が俗世を離れて修行に励む僧院の生活とはどのようなものでしょうか。本展示では南蔵院(なんぞういん)寄贈の資料をもとに、チベット寺院の堂内を再現し、そこで行われる法要や祭礼の様子、日常生活の一端を紹介します。
 
※「ラマ教」という言葉は、西欧や日本でいまだチベット文化に対する理解が浅い時代にできた言葉であり、そこには文化的価値観の違いによる偏見が含まれている場合があります。そのため現在では一般には用いられず、「チベット仏教」「チベット密教」などと表記されています。


1、僧院の建物


スィーパ・コルロ(六道輪廻図)

チベット仏教のゴンパ(僧院)は、多くの僧侶が協同生活を営むための機能を備えています。寺院が造られる場所は町中や山の上など様々で、規模も千差万別ですが、勤行堂(ごんぎょうどう)(本堂)、諸尊堂、護法堂、住職の部屋、僧坊、図書室から構成されているのが普通です。
 僧院は一般信者の信仰の対象でもあり、入口には輪廻転生(りんねてんしょう)の意味を教えるスィーパ・コルロ(六道輪廻図(ろくどんりんねず))が描かれています。また、石に真言(しんごん)を刻んだマニ石が並べられ、回すと経典を唱えた功徳(くどく)があるとされる大小のマニ車が設置されている場合も少なくありません。
 勤行堂は文字通り朝夕の勤行をおこなう僧院の中心的な建物です。内部には本尊壇や導師座、経机などが置かれており、勤行では読経(どきょう)の合間に食事をおこなう点が日本とは異なっています。護法堂は僧院や宗派の守護神を祀り、図書室には経典が収められています。


2、僧院の1日


ペティ(経典立て)

 修行僧は通常7、8歳で出家し、僧院での生活がはじまります。1日の日課は宗派や修行の段階によっても異なりますが、一般的には朝4時頃に起床し、まず仏の名を唱えて礼拝(らいはい)して各自洗面や掃除を済ませた後、全員が勤行堂に集合して朝の勤行がはじまります。
 勤行は約2時間続き、この間決められた経典を唱え、食事をおこなうことになっています。食事は俗人と同じくツァンパ(大麦を煎(い)って粉にしたもの)とバター茶で、少年僧が給仕を勤めます。
 勤行の後は各自部屋に戻って能力に応じた学習(哲学や語学など)に励み、午後は師匠について経典などの指導を受けます。また、トルマ(供物(くもつ))を作ったり、版木で護符を摺る仕事もあります。夕方5時には本堂で勤行と食事をおこない、その後は11時頃まで問答(ディベート)を実習し、最後に経文の暗唱をして就寝となります。


3、法要と楽器


ドゥンチェン(大笛)

 チベット寺院でおこなわれる法要には日本の寺院とは比較にならないほど多くの楽器が使用されます。これらは朝夕の勤行や重要な法要の際に必ず合奏されますが、そこにはすばらしい音によって神や仏を喜ばせる(=供養する)という意味が込められています。
 楽器の種類は大きく打楽器と管楽器の2種類に分けられます。打楽器にはリズミカルに手で持って打ち鳴らすンガー(柄太鼓)、デンデン太鼓に似たダマル(振鼓)などの太鼓類、そして楽曲全体の調子をとるシンバルに似たブプチェル(縦(たて)ばつ)といった金属楽器があります。
 管楽器にはメロデイーを受け持つギャリン(中笛)、法要を開始する合図などに用いるドゥンチェン(大笛)、行進の際に用いるトゥンカル(法螺(ほら))、人骨でできたカンリン(骨笛)などが含まれます。これらの楽器は僧侶の位によって分担が決められているのが普通です。


4、僧院の食事


ブプチェル(縦ばつ)


ツォクポル(木皿)


シャナ(黒帽)

 僧院の食事は仏に感謝を捧げるという意味から、主に勤行堂での読経(どきょう)の合間におこなわれます。食べ物はチベット人の主食であるツァンパとバター茶だけの質素なもので、当番の少年僧によって配られます。ツァンパは大麦を煎って粉にしたもので、ツォクポル(木皿)を使ってバター茶で練って手づかみで食べるのが習慣です。
 乾燥した気候のため頻繁に飲まれまるバター茶は、お茶とヤク(チベット高原で家畜として飼われる高山性の牛)の乳からできたバターと塩を混ぜたもので、固形の茶を削って薬缶(やかん)で煮出し、これをチャドンと呼ぶ筒に入れ、塩とバターを加えてかき混ぜて作ります。


5、僧院と祭礼

 普段は俗世間から隔絶した修行の場である僧院でも、宗派の開祖に関係するような縁日には境内で盛大な祭りが開かれます。この時ばかりは法要のご利益にあずかるため、また次々と繰り出される踊りや劇を見るために、付近の町や村から多くの人々が集まります。
 チベット仏教のニンマ派寺院でも開祖パドマサンバヴァ(=グル・リンポチェ)の縁日である10日には、その遺徳を偲んでチェチュ(10日)祭が開かれます。
 ここでは必ずチャムと呼ばれる劇仕立ての仮面舞踏が披露され、僧侶が仏菩薩や忿怒尊(ふんぬそん)、動物などの仮面をかぶって、時に激しく、時にはユーモラスな踊りを繰り広げます。
 なかでもチェチュ祭の最大の見所であるシャナ(黒帽(こくぼう))の舞は、須弥山(しゅみせん)を意味する黒い帽子と、鮮やかな衣装をまとった、何人もの僧侶が激しく回転する舞で、そこには回転することによって現世に災いをなす一切の悪霊を鎮めてしまう意味が込められています。

(末吉武史)

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