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No.231

歴史展示室

近代の保健と衛生

平成15年11月26日(水)~平成16年2月1日(日)


ポスター
「第3回国民体育大会」

 多くの人が健康で長生きしたいと考えています。そのためには「清潔」で「衛生」的な社会が必要です。実は、日本社会に今日のような「衛生」という考え方がもたらされるのは明治以降のことです。19世紀に世界的に流行した伝染病コレラは、幕末・維新期の日本にも多くの犠牲者を生みました。1884(明治17)年コッホがコレラ菌を発見したのに続き、腸チフス、赤痢などの病原菌が次々に発見され、これらの病気の治療と予防には「衛生」的な社会が必要だということになりました。また、欧米列強と並ぶ"強い"国家をつくりたいと考える明治政府の「富国強兵」政策においては、壮健な国民が必要であり、そのための「衛生」システム作りが急がれました。
現在日本の平均寿命は男性78.3歳、女性85.2歳(平成14年)となり、「人生80年」ともいわれるようになりました。今も克服できない病気はありますが、日本では21世紀までに何種類もの病気を克服し、死亡率を下げてきました。近代日本が「保健」や「衛生」を重視したことによって、今日の「清潔」で「健康的」な生活はもたらされました。少し前の時代に「衛生的」な社会を作る努力が続けられたことに目を向けていただきたいと考えます。
本展は、福岡市博物館が所蔵する資料の中から、近代日本の保健や衛生に関するものを選んで展示するものです。明治以降の日本では、病気、特に伝染病や感染症の蔓延を防ぐことは至上命題でした。薬の特効性が望めず、決定的な治療ができなかったため、治療よりも患者を隔離して、伝染拡大を防ぐことに注意が向けられました。その折には、現在と違い、プライバシーが保護されず、人権が侵害されたこともありました。感染すると短時間に人命が失われるため、病気に対する恐怖心は大きく、病気、ひいては患者やその家族に対する根強い偏見や差別が生まれました。そのため、展示資料中には現在は使われない語句や考え方がありますが、歴史的資料としてそのまま展示し、また歴史用語として説明文等に使用しています。この展示をご覧になるみなさんが、近代日本が持ち続けてきた保健や衛生に対する意識を理解し、今日なお残っている問題を解決しようと考えるきっかけとなれば幸いです。


1 病気を防ごう 

  明治政府のもとでの地方行政では、衛生状態を保ち、伝染病を予防することは重要な問題でした。明治4(1876)年に全国に府県が置かれた直後から、各県では衛生に関する情報を集め、県民にも広報しました。明治20年代になると、郡や村ごとに「衛生組合」などの団体を結成し、病気の予防や措置について取り決めていました。天然痘の予防接種である種痘が行われ、病原菌を運ぶネズミの捕獲・買い上げも奨励されました。


2 運動会に行こう

   明治18(1885)年初代文部大臣となった森有礼(もりありのり)が体育を重視したことから、小学校で運動会が行われるようになりました。体育といっても、明治・大正期の授業は体操が中心でしたが、やがて遊技や競技種目が加わりました。後には「教練」(軍事訓練)や「武道」なども加えられ、運動が精神性を伴うものとかんがえられるようになりました。体育やスポーツが、体力向上とともに心の健康を養うことを目的とするようになったのは第2次世界大戦後のことでした。


3 石鹸(せっけん)で手を洗おう

    西欧から日本に石鹸がもたらされたのは室町時代といわれていますが、日本での製造・販売が広まるのは明治中期頃のことです。大正時代から昭和初期にかけて、化学工業の発達とともに、技術的にも数量的にも安定した供給がなされるようになりました。後に化粧品会社として成長する企業も、当初は石鹸を中心に営業していました。


4  きれいな町で暮らそう

   日本の近代都市に公園が設けられたのは、必ずしも緑の憩いの場を求めてのことではありません。むしろ、西欧列強の仲間入りをするため、欧米の都市公園をまねた公園制度を取り入れる必要に迫られたことが背景にあります。しかし街に公園があることによって、人々が得た時間的・空間的なゆとりはかけがえのないものでした。
また、上水道が敷設されて、清潔な水が供給されたことで、街での暮らしは一層衛生的なものとなりました。


5 温泉に行こう

 もともと温泉は病気を治療する場であることが多く、それを「湯治(とうじ)」といいます。しかし今日では温泉に行くのは、湯治ではなく、心を癒すリラックス効果を望んだり、観光が目的であったりすることが多くなりました。昭和初期に温泉を観光地として開発したのが、別府です。また昭和初期の旅行ブームの中では、観光のほかに山へ登山やハイキングへ行く、また海に海水浴へ行くなどのレジャーも好まれました。

(野口 文)

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