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No.233

考古・民俗展示室

中世博多の職人たち

平成15年12月2日(火)~平成16年2月8日(日)

中世博多の職人たち


ミニチュアの青銅製柄杓

 博多は、古代の末から中世にかけて、中国の貿易商人である博多綱首(こうしゅ)たちが、より自由な貿易を求めて住みだしたのが始まりです。当時この地は砂浜で、めだった集落もありませんでした。まず「唐房(とうぼう)」と呼ばれる中国商人の居住地がつくられ、しだいに多くの日本人たちも住み始め、当時としては最先端の物と文化に触れることのできる、国内最大級の国際都市となりました。そして、都市化とともに大量消費の場となったのです。
 多くの人たちが生活をするためには、衣・食・住すべての面において、さまざまな物が大量に必要となります。それらをつくり出すのが各種の職人たちです。博多遺跡の各調査地点からは、鉄や銅を溶かすためにつくられた炉の跡、また、漆を塗るためのヘラや加工途中の鹿の角など、物を作る手工業者たちの活動の跡や工具がみつかっています。つまり、人々の生活を支えるさまざまな分野の職人たちが、街の中に雑居していたのです。今回は、博多遺跡出土の遺物から、職人たちと関わりのあるものを取り上げ、それらを通して、当時の職人たちの仕事を紹介します。


金属・ガラス


鍛冶炉跡の検出状況

 金属製品の主なものとしては、青銅製、鉄製と少量の錫(すず)製のものがあります。青銅は、銅と錫を混ぜ合わせた合金で、わが国では、弥生時代の武器類にその製作はさかのぼります。中世社会では、刃物などの堅さが求められるものには鉄が使われ、青銅製品は熱伝導の良さと柔軟性から、鍋や装飾品などに使われるようになります。
 金属製品の製作方法には、大きく鍛造(たんぞう)と鋳造(ちゅうぞう)の二つの方法があります。鍛造は、金属を加熱して軟らかくなったものを、金づちなどで叩いて製品をつくるものです。金属全般に用いられますが、常温で強度をもつ鉄製品に多用されます。鉄は、その含まれる炭素の量によって錬鉄(れんてつ)、鋼鉄(こうてつ)、銑鉄(せんてつ)の三種類に分けられます。そして、鉄の鍛造製品には弥生時代以降、農工具や武器として幅広く利用されてきた鋼鉄が使われます。鍛造でつくられた鋼鉄製品は腰のある強靭(きょうじん)なもので、一般的に刃物類に使われます。その鍛造製品で、究極の技術を持った職人として刀鍛冶(かじ)職人があげられます。性質の異なる鉄を幾つも重ね、一振りの刀に鍛えあげていくのです。中世の博多にも、名工と呼ばれた左文字という刀鍛冶が住んでいました。
 一方、鋳造は、作りたいものの形を外型と内型のすき間につくり、液体状に溶けた金属を、その間に流し込んでつくるものです。青銅、錫、鉄などの金属に用いられ、鉄製のものでは、比較的低温で溶解(ようかい)する銑鉄が使われました。銑鉄は、鋳造に使われるため鋳鉄(ちゅうてつ)とも呼ばれます。鋳造で使われる型を鋳型(いがた)と呼び、土製のものと石製のものが見られます。
 炉を使って金属を溶かして製品を作るのと同様に、ガラスの溶解と製品の製造もおこなわれていました。それは、ガラスの素材が付着したルツボなどの発見から裏付けられます。ガラスは当時、大変貴重なものであったと思われ、その再利用率は相当高かったと考えられます。



博多遺跡出土の下駄

 人々の暮らしで、最も大量に使用されたのが、木の製品です。身の回りの物のほとんどが木でできていると言っていいでしょう。中世の社会は、分業化が確立した時代です。例えば、木の伐採をする人は木材を切って売るだけで、それから何が作られるのかは知りません。木材が売れるので、ひたすら切って売るだけです。その結果、都市部周辺の木材を消費してしまい、個人で木材の伐採から、製材、加工までを行っていた人たちが、急激に減少していくことになります。ただし、そのことが職人を街の中に住まわせ、より消費者の嗜好(しこう)に合わせた商品をつくりだすことにつながっていくのです。
 都会の生活には、下駄の使用が欠かせません。通常村では裸足で生活をしていますが、博多の建物には板の間があり、それを清潔に保つために、下駄が履かれるようになります。遺跡からは子供用、女性用、男性用など、いろいろな大きさのものが出土しています。また、それまではあまり見られない漆塗りの椀や皿などの食器類に、様々な図案が見られるようになります。このことは、国際都市博多に住んでいた人々の多様な需要に合わせ、職人たちの物作りも多様化していったことを示しています。


骨角

 獣・鳥・魚の骨、角・歯・牙・貝・甲羅などを素材として作られたものです。遺跡から出土する骨角製品には簪(かんざし)、網を修理するための針、刀の装飾品などがみられます。素材では、牛の骨や鹿の角などが多いようです。珍しいものでは、鹿角(ろっかく)製の「ゆはず」が出土しています。「ゆはず」は弓の両端のつるをかける部分のことです。通常は、弓本体を削り出してつるをかけるのですが、このようなソケット式のものはあまり見られません。骨角製品をつくる職人が、注文に応じてつくったのでしょう。
(加藤 隆也)

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