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No.237

黒田記念室

染織シリーズ1 ちりめん万華鏡

平成16年3月30日(火)~5月30日(日)

◆縮緬という絹織物


4.蘭藤水車文様振袖(部分)
展示期間 4/27~5/30



4.蘭藤水車文様振袖(部分)
展示期間 4/27~5/30

 縮緬(ちりめん)は、表面がちりちりと細かく波打っている絹織物です。きもののほか風呂敷(ふろしき)や袱紗(ふくさ)にも仕立てられ、またお手玉や人形、小さな袋ものなど、和風ファンシー・グッズの材料として用いられています。日本人にとって一番身近な絹織物といってよいでしょう。縮緬は、織物として織る前に、緯糸(よこいと)に強く撚(よ)りをかけておき、織った後に撚りを戻す加工をすることで、細かい縮み皺(じわ)を浮き上がらせており、この細かい皺をとくに「しぼ」と呼んでいます。縮緬の魅力とは、この「しぼ」の作り出す独特の風合いだと言えるでしょう。
 縮緬は、16世紀末、南蛮貿易がさかんな頃、中国・明(みん)からもたらされました。一説には、天正(てんしょう)年間(1573~1592)、明の織工が泉州・堺(大阪)に伝えたとされています。縮緬と時期を同じくして明から伝来した絹織物に綸子(りんず)があります。綸子は、文様を織り出した紋織物で、表面につややかな光沢のある、たいへん美しい織物です。江戸時代の初めには、服地として定着していました。例えば、武家女性の間で流行した「慶長小袖(けいちょうこそで)」、やや時代が下って、有力町人の女性の間で流行した「寛文小袖(かんぶんこそで)」には、綸子地のものが多く見られます。このような綸子の早い普及に対して、縮緬が広く用いられるようになったのは17世紀の終わり頃。中国から伝来してから、およそ100年後です。この時間差の原因は、まず、縮緬の製法自体に求めることが出来ます。機織り前の糸の撚りかけ、そして、織ったあとの撚りを戻す加工といった前処理・後処理が、従来の絹織物とは違う技術的な発想を必要としました。次で考えるべきは、当然、ニーズの問題でしょう。縮緬が普及した背景には、絹織物の需要を左右する、服飾における大きなモードの変化がありました。それは、友禅染(ゆうぜんぞめ)の発生と流行です。


◆縮緬と友禅染


1.几帳檜扇文様振袖
展示機関 3/30~4/25

 「慶長小袖」「寛文小袖」など、綸子が多用された江戸時代前期の小袖は、つややかな地紋の上に鹿子絞(かのこしぼり)、刺繍などで比較的大柄な文様を表していました。生地自体の光沢と地紋、粒々した鹿子絞、きらめく金糸や鮮やかな色糸による刺繍が織りなす全体の印象は、多様な質感・触感が響きあっているような、賑やかなものでした。しかし、天和(てんな)3年(1683)、町人の衣服に金糸繍(きんしぬい)や鹿子絞は禁じられ、小袖の値段の上限が設けられます。その頃折しも、染色の分野において画期的な技法が完成しつつありました。糊置き・色挿(さ)しによる友禅染(ゆうぜんぞめ)です。友禅染は、防染の段階で、漏斗(ろうと)状の筒の先端から防染剤となる糊を細く絞り出して文様の輪郭を線描(せんが)きし(糸目糊(いとめのり))、加染の段階で、筆を用いて直に文様に色を挿していきます。その手法は絵を描くことに近く、板締めや縫い絞りによって防染部分と加色部分をつくる技法に比べて、色遣いや文様表現の自由度が格段に高い技法でした。金糸繍や鹿子絞が制限されても、美しい衣服を求めてやまなかった人々の関心は、一気にこの新来の染色法に向かっていきます。そして、友禅染にマッチする素材として、縮緬がクローズアップされるのです。縮緬は、地紋のある綸子と違って表面は無地、しかも、極小無数のしぼりが光を乱反射します。例えば、現在の印刷物でも、手触りがツルツルした紙とザラザラした紙では、刷り上がりの感じが違います。ザラザラ紙の方が色も形も落ち着いて見えます。それと同様、縮緬では表面のしぼが染めの色や形がしっとり、くっきり見せる役割を果たすのです。これは、細くなめらかな糸目糊の線と多色の色遣いを身上とする友禅染にはもってこいです。縮緬は、友禅染の流行とともに、衣服の生地として普及、定着したのでした。


◆縮緬の細工もの


10.楊枝差52点のうち

 縮緬は、押絵などの細工ものにもよく用いられています。きものに仕立てた残り裂が身の回りにたくさんあったし、カラフルで手触りが柔らかく、伸び縮みするので細工がしやすかったからでしょう。普段きものを着ることが少なくなった現代でも、縮緬細工は人気があります。パッチワークで仕立てた小袋やお手玉、丹念に作られた人形は、思わず手にとりたくなる可愛さです。さて、現代ではあまり見られませんが、江戸時代に盛んだった楽しい縮緬細工に、楊枝差(ようじさし)や紙挟(かみばさみ)と呼んでいる小物入れがあります。これは、箸(はし)や楊枝、簪(かんざし)や化粧用の刷毛(はけ)、櫛(くし)や小さな鏡など、身だしなみに必要な細々したものを入れて懐(ふところ)に納めるためのもので、厚紙の芯を縮緬でくるんで作られています。この小物入れの文様に、さまざまな細工技法が発揮されています。綿を仕込んで立体感をもたせる押絵(おしえ)、地布に別布を縫いつけた切付(きりつけ)、地布を文様の形に切り抜いたところに別布を嵌(は)め込む切嵌(きりばめ)のほか、布に直接顔料で絵を描く描絵(かきえ)などがあります。あらわされた文様には、石畳文や流水、几帳(きちょう)や御簾(みす)、牡丹や桜など、王朝文化をイメージさせるような雅な題材が多く、中には、題材の組み合わせによって、和歌や漢詩の内容や、そこに詠(よ)まれる名所を暗示するものもあります。このような文芸的な含みを持たせた仕掛け文様は小袖の意匠にも見られます。着るもの・持つものに、見た目の美しさを求めるだけでなく、一種のウィットを効かせようとするのは、江戸時代特有の美意識が現れていると言えるでしょう。

 (杉山未菜子)

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