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No.246

黒田記念室

甲冑にみる江戸時代展2-大水牛と桃形の系譜-

平成16年7月21日(水)~9月20日(月・祝)

はじめに

 今回の甲冑展は福岡藩初代藩主黒田長政(くろだながまさ)所用の「黒漆塗桃形大水牛脇立兜(くろうるしぬりももなりだいすいぎゅうわきだてかぶと)」(以下「大水牛」)を中心に、歴代藩主や藩士の甲冑、「大水牛」が描かれた絵画などから、そのデザインが人々に引き継がれ、藩の象徴となっていく過程を紹介します。福岡藩の甲冑の特徴は?身分による違いは?「大水牛」をキーワードに福岡藩の江戸時代を読み解きます。

1. 黒漆塗桃形大水牛脇立兜(初代長政) 2. 黒漆塗桃形大水牛脇立兜(初代長政)

1、引き継がれる「大水牛」

  初代藩主黒田長政が朝鮮出兵の際などに身につけたといわれる「大水牛」は、現在当館に2頭収蔵されています。一方は石餅(こくもち)の前立(まえだて)と太くて長い脇立を備えた兜(1)で、もう一方はやや脇立が小振りで前立も無い、軽量で実戦的な作りの兜(2)です。「大水牛」はその控えが、福島正則(ふくしままさのり)の「一(いち)の谷形(たになり)兜」と、不仲解消のために、交換されたことで知られているように、いくつものスペアが存在していました。
  2代忠之(ただゆき)も「大水牛」を着用したとされていますが、兜自体は残っていません。ただ、脇立は「忠之様水牛立物」という櫃(ひつ)の中に二対残されています。そのうち一対は根本にギザギザの切り込みが入った星兜(ほしかぶと)用(8-(2))で、もう一対は通常の形になっており(8-(1))それぞれ別の兜に装着されていたことが分かります。忠之用の「大水牛」は一体いくつあったのでしょうか?謎の多い脇立です。
  3代光之(みつゆき)の「大水牛」(4)は「異制吹返(いせいふきかえし)」と呼ばれる独特な形の吹返を備えた、やや復古調(ふっこちょう)の作りになっています。尚、光雲(てるも)神社には光之の兜と酷似した「大水牛」が存在していたことが、写真から知ることが出来ますが、残念ながら1945年6月19日の福岡大空襲で焼失してしまいました。
  江戸時代中期の藩主に関しては「大水牛」は残されていませんが、幕末の11代長溥(ながひろ)、12代長知(ながとも)の代には再び登場してきます。長溥の兜(5)は小振りの脇立ながら長政の「大水牛」を精巧に再現しています。一方、長知の兜(6)は長政のものとは形が随分異なりますが、初代に迫る長大な脇立を備えています。2人とも「一の谷形兜」も用いており、長政に対する崇敬の念がひときわ強かったことが分かります。
  以上を時期的にみると、江戸時代初期の藩政の確立期と幕末という時代の画期に「大水牛」が登場してきたことが分かります。これら一連の甲冑からは、時代の変化に対応するために、長政の武勲にあやかろうという歴代藩主の意識を窺うことが出来ます。
  ちなみに、初代藩主の甲冑が後代に模倣されていく例は他にも数多く見られます。特に有名なのは「井伊(いい)の赤備(あかぞな)え」で知られる彦根(ひこね)藩主井伊家の例でしょう。井伊家の甲冑は「天衝(てんつき)」と呼ばれた長大な脇立と朱漆で一色に統一された鮮やかなデザインによって、数ある大名家の中でもひときわ異彩をはなっております。他にも仙台(せんだい)藩主伊達(だて)家では上弦(じょうげん)の月をあしらった「弦月前立(げんげつまえだて)」と蝶番(ちょうつがい)を4ヶ所に持つ「五枚胴(ごまいどう)」が、徳島(とくしま)藩主蜂須賀(はちすか)家では中国古代の冠を模した「唐冠形(とうかむりなり)兜」が、熊本(くまもと)藩主細川(ほそかわ)家では初代忠興(ただおき)が考案した「越中頭形(えっちゅうずなり)兜」と山鳥(やまどり)の尾羽を頭頂部に立てた「山鳥毛頭立(やまどりげずだて)」が、薩摩(さつま)藩主島津(しまづ)家では初代忠久(ただひさ)が狐火に守られて誕生した伝説にちなんだ「狐前立(きつねまえだて)兜」が、それぞれ後の藩主の甲冑に引き継がれていました。井伊家は別として、外様の大藩にこの傾向が特に強く見られたようです。徳川家との関係が希薄にも関わらず、戦国時代を勝ち抜いて広大な所領を獲得した初代藩主に対する崇敬の念が、これら外様の大名家ではひときわ強かったと言えます。なお、徳川(とくがわ)将軍家も、家康(いえやす)が関ヶ原の合戦の折に着用していた「伊予札黒糸素懸威胴丸具足(いよざねくろいとすがけおどしどうまるぐそく)」を、勝利を呼ぶ甲冑として重宝していました。
  これらの事例からは、甲冑というものが、単なる戦(いくさ)の際の防具としてだけでなく、平和な時代においては家の象徴として、外に向かっては自らの武威を誇示する道具として、考えられていたことが分かります。



8.水牛立物(1)(2代忠之) 8.水牛立物(2)(2代忠之)
「小いほ鉢」とある
9.水牛立物(3代光之)
歴代の水牛立物と異なり色が黒い
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