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No.278

考古・民俗展示室

考古資料にみる高麗と博多

平成18年4月11日(火)~平成18年6月18日(日)

高麗の影響を受けた瓦

―単弁八葉軒丸瓦と半截花菱文軒平瓦―
 単弁八葉軒丸瓦(たんべんはちようのきまるがわら)は内区中央が圏線によって囲まれ、中心に1個、その周囲に8個の蓮子(蓮の実)が配された中房に、単弁(たんべん(ひとえの花弁))八葉(はちよう)の蓮華文を配しています。間弁(かんべん)はなく弁と弁はつながっています。蓮弁は断面半円形の凸線で外形を表現し、高肉に盛り上がっています。外区内縁(がいくないえん)に32個の珠文(しゅもん)をめぐらせています。筥崎宮(箱崎遺跡)南東部の径200mの範囲、観世音寺境内を中心とする方300mの範囲で出土しています。観世音寺の調査では5%に近い出土率があり平安時代の観世音寺を代表する瓦です。この型の軒丸瓦に接合される丸瓦凸面(まるがわらとつめん)の叩き目には斜格子地に花菱文が配されたものが見られます。
  単弁八葉軒丸瓦とセットとなる軒平瓦は箱崎遺跡では丸瓦の叩き目にみられた花菱を半截(はんさい)(切)し、内区に上下互い違いに配した文様からなり、上下外区に配されている珠文の径、間隔、外区を仕切る界線などの太さが単弁八葉軒丸瓦と同じです。短い段顎(だんあご)を持ち、単弁八葉軒丸瓦の多くにみられたようにレンガ色に硬く焼き上げられています。軒平瓦の内区に花菱文を配する例は北部九州では稀ですが、畿内に類例をみることができます。
  寛平6年(894)の遣唐使の廃止を機に国風文化が発達したという見解が定説とされてきましたが、近年はその見直しが進んでいます。11・12世紀の畿内を中心とする瓦当文様は『藤原文化』の一つとして捉えられ、和様化したものと論じられてきました。半截花菱文(はんさいはなひしふみ)の瓦当文様の瓦は畿内では11世紀前半の藤原道長による法成寺創建に際し発注されたものが最も古く、京都府亀岡市王子瓦窯(丹波)の他、播磨(はりま)・讃岐(さぬき)・尾張(おわり)にも伝播し、12世紀中葉以降まで用いられました 。単弁八葉についても同様に畿内に見られ、複弁八葉蓮華文が立体感を失って変化 したものとされます 。それらの源流は高麗にあったことが指摘されています。



単弁細弁十四葉軒丸瓦
―単弁細弁十四葉軒丸瓦―

 大宰府や鴻臚館で出土する瓦の文様の端々には統一新羅の影響が認められます。軒丸瓦の場合、半球状に盛り上がった中房(ちゅうぼう)、中房(ちゅうぼう)の周囲の蓮子(はす)、単弁(たんべん)・細弁(さいべん)で弁数が10弁を越す蓮弁、一段高い外区の連珠文(れんじゅもん)などを特徴としてあげられます。統一新羅末から高麗初めに並行する時期の鴻臚館出土軒丸瓦は、蓮弁が細弁の単弁14葉を数え、中房は盛り上がり半球状をなし、その周囲を二重の圏線で囲み、その中に珠文を配しています。外区は内区の文様より一段高い外縁に細かい連珠文を施しています。鴻臚館第Ⅲ期建物改築に伴う所用瓦と考えられています。単弁八葉蓮華文と同様に複弁八葉蓮華文が立体感をなくし変化したもので、蓮華文というより菊花文に近いものです。セットとなる軒平瓦についても、内区唐草の文様面より外区が一段高く作られています。


金属工芸品にみる高麗との交渉

 細い蓮弁文は金属工芸品では高麗に入っても引き続き用いられています。

 銅鐘  福岡県には高麗鐘が7口伝わり、全国で渡来鐘が最も多いところです。その多くは16世紀以前に倭寇、文禄・慶長の役による略奪の他、公式な交渉での贈与などで渡来したものといわれています。福岡市博多区 承天寺(じょうてんじ)鐘には清寧11年〔遼(916~1125年に中国東北部にあった国)道宗の年号、高麗文宗の19年(1065)に相当〕製作の紀年銘が 鋳出(いだ)され、さらに明応7年(1498 )に渡来した旨の銘が追刻されています。鐘を鳴らすときに撞く撞座(つきざ)は周縁に連珠文をめぐらせた細弁の複弁(やえの花弁)十六葉蓮華文で、木瓜形の中房に 雄蕊(おしべ)をめぐらせ、蓮子を 中心に1個、その周囲に6個 配しています 。単弁細弁の鴻臚館軒丸瓦よりやや下った時期の製作ですが、周縁に連珠文をめぐらし、中房の周囲の雄蕊(鴻臚館軒丸瓦に見られる中房周囲の蓮子はその省略形)、蓮弁が細いことなど、統一新羅の蓮華文の様式を踏襲しています。
 銅鋺  銅鐘の他に、高麗渡来の金工品として、博多遺跡群の調査で出土した銅製の鋺があります。鋳銅製で、轆轤挽(ろくろび)きで仕上げられています。器形は丸みを持つ体部から口縁部が水平に折れ、端部は玉縁状をなし、底部には高台が付きます。なお、同じ器形、法量の鋺が韓国の忠清北道清州市雲泉洞、思悩寺跡から出土しています。
 銅鏡 この時期の渡来鏡も陶磁器と同様にほとんどが中国宋からもたらされたものです。高麗鏡は中国や日本の銅鏡を模倣した独自性のない粗製のものが一般的です。波濤船八稜鏡(はとうせんはちりょうきょう)は伝太宰府市般若寺跡出土とされ、韓国では同じ型のものが多く出土しています



波濤船八稜鏡

銅銭  渡来銭の多くが 宋銭である中で、博多遺跡群で高麗銭の東國通寶(初鋳年1097年)が出土しています。
(佐藤一郎)


*今回の展示にご協力頂いた関係機関ならびに各位に対し、厚くお礼申し上げます。

参考文献
日本貿易陶磁研究会『貿易陶磁研究』№5 1985/日本貿易陶磁研究会『貿易陶磁研究』№25 2005/韓国忠清埋蔵文化財研究院『瑞山舞將里窯址』 2000/韓国国立光州博物館『康津三興里窯址Ⅱ』 2004/中山平次郎「古瓦類雑考(五)」『考古学雑誌』第6巻11号 1916/上原真人「11・12世紀の瓦当文様の源流」『古代文化』第32巻第5・6号 古代学協会 1980/栗原和彦「大宰府出土瓦に見られる朝鮮半島統一新羅時代文化の影響」『九州歴史資料館研究論集』26 2001



象嵌青磁皿

青磁印花文皿
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