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No.304

黒田記念室

福岡の御用絵師展3~尾形家絵画資料を中心に~

平成19年7月31日(火)~9月30日(日)


25 尾形洞霄 長崎港図

《鑑賞画制作》

 「尾形家絵画資料」の中で最も多いのは、人物画や山水画、花鳥画といった一般的な鑑賞絵画の粉本や下絵です。特に大名家に仕える御用絵師とっては、中国の故事を主題とした作品制作の比重が大きかったようです。というのも、中国の故事や人物を描いた絵画は、大名の教養、素養を示すだけではなく、国を治める為政者が備えていなければならない人徳を表している主題も多く含まれ、自らを戒める鑑戒画(かんかいが)として、室内を飾る絵画の中で上位に位置づけられていたからです。こうした作品を描く際には、画題によって要求される約束事を外してしまっては作品として成り立ちません。先例や手本が重要視されたわけです。尾形家二代の守義(もりよし)は江戸で狩野探幽(かのうたんゆう)に学んだ絵師ですが、「高士図」は師の探幽作品を稽古用に写したものです。原本に記された師の落款まで写しており、原本が探幽作品であることの重要性が意識されています。
 また尾形家6代洞谷(どうこく)筆「鯉図」の画面には、この図が尾張徳川家の杉戸絵(すぎとえ)を写したものであると書かれています。実際に尾張徳川家の屋敷で写した という可能性もなくはありませんが、他家の御用絵師や師家の狩野派が持っていた下絵や縮図から写した可能性のほうが高いでしょう。だとすれば、粉本が幾度も転写され、御用絵師たちの間に流布していく様子が窺われる興味深い作品です。


《写生図》


18 鳥類写生帖(部分)

15 魚貝類写生帖(部分)

 「尾形家絵画資料」には、実物を目の前にして描いた写生図も数多く含まれています。粉本と異なり、御用絵師たちの息づかいが直接感じられるのが魅力です。尾形家では鳥や獣、魚など、種類別に4冊の写生帖にまとめて保存されています。彩色も美しく、そのまま作品として鑑賞できる完成度の高い図が多く含まれています。


19  ロシア使節団図 40枚のうち

 また、これは花鳥の写生ではありませんが、歴史的にも興味深いのが、8代探香(たんこう)の描いた19「ロシア使節団図」です。嘉永6(1853)年7月、軍艦4隻を率いたプチャーチン提督以下のロシア使節団が長崎に来航しました。アメリカのペリーに遅れること1ヶ月半のことです。使節団は12月なってようやく交渉のために上陸を許可されます。福岡藩は、佐賀藩とともに長崎警護の役を担っていました。そのため、探香も使節団の様子をスケッチできたのでしょう。40枚からなる図には、彼らの個性的な容貌をはじめ、様々な服装で佇む姿、それに銃、楽器類、傘などの持ち物まで描かれています。異国人や見たことのない道具を目の前にして、好奇心に目を輝かせながら筆を取る探香が目に浮かびます。日本の近世史上重要な歴史的場面に立ち会っているという意識を持っていたかどうかはわかりませんが、彼が歴史の証人のひとりであったこと、そして歴史的な事件を生き生きと描き残したことは事実です。しかしながら、御用絵師という職業がなくなってしまう時代がすぐそこまで来ていたとは、夢にも思わなかったことでしょう。
(中山喜一朗)

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