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No.316

黒田記念室

きじ馬と木うそ-九州・木の郷土玩具-

平成20年4月1日(火)~5月25日(日)

きじ馬(左)と木うそ(右)

はじめに

 当館が所蔵する郷土玩具の中から、九州を代表する木の玩具、きじ馬と木うそをご紹介します。どちらも素朴で野趣(やしゅ)あふれる姿形の中に、とてもチャーミングな表情を持っています。産地、作者ごとに異なるその造形のおもしろさを見比べながら、それらを生み出し楽しんだ人々の暮らしを思い浮かべてみてください。

1、きじ馬

 きじ馬は、きじ車とも呼ばれ、木で作った胴体に車輪を付けて転がせるようにしたおもちゃです。郷土玩具の世界では、九州独特の玩具として、東北のこけしと対比され注目された存在です。

(1)きじ馬のかたち

 それでは今回の展示資料を、きじ馬の形状をもとに、いくつかのグループに分けてみましょう。分類は、車輪の数と、背の鞍(くら)状の凸部を指標とします。

グループA【二輪・鞍あり】

北山田(きたやまだ)のきじ馬

 大分県玖珠郡(くすぐん)玖珠町(くすまち)。産地の旧村名である北山田の名で呼ばれます。素材はホオノキで無彩。昭和26年頃、北山田郵便局長の高橋善七さんが、この地に伝わるきじ馬の再興を思い立ち、大工・中村利市さんにその製作を依頼しました。中村さんが作るきじ馬は、郷土玩具愛好家の間で評判となり、玖珠・日田(ひた)地方のきじ馬は大いに注目を集めることになりました。
 北山田では、かつて庄屋の家に男の子が生まれたとき、そのお祝いに上野由左衛門という人がきじ馬を考案したと伝えています。戦前、子どもたちは、きじ馬に紐(ひも)をつけて曳(ひ)き回ったり、跨(またが)って坂道をすべり降りたりして遊んだといいます。

北山田型のきじ馬

 北山田のきじ馬の造形に大きな影響を与えたのが、戦後創設された日田工芸指導所(のち日田産業工芸試験所)の初代所長を務めた寺川由己さんでした。寺川さんはそれまで丸太に少し細工を施した程度の玩具であったきじ馬に、整った造形美を求め、試行錯誤を繰り返しました。その成果は北山田のきじ馬に反映され、玖珠・日田地方の地場産業として広く生産が奨励されることになりました。

小鹿田(おんた)のきじ馬

 大分県日田市源栄町(もとえまち)皿山(さらやま)。昭和30年頃に、郷土玩具研究家の勧めで坂本仙蔵さんが短期間だけ作ったものとみられます。素材はヘラノキで、無彩。たいへん首が長い特異な形状をしています。車輪が陶器でできているところは、いかにも焼物の里のきじ馬です。

吉井のきじ車

 福岡県うきは市。かつて旧吉井町の若宮八幡宮の祭礼できじ車が売られていたことからこう呼ばれます。昭和の初め頃に廃絶しますが、昭和30年代に金子文夫さんによって復活しました。頭が小さく尾が長い胴体は、黄色い地色に赤と緑で彩色が施されています。

北野のきじ車

 福岡県久留米市。北野天満宮の木うそを作っていた新堀善太郎さん製作のものが知られています。吉井のきじ車と同じく黄色い地色に赤と緑で彩色が施されています。首、尾がともに長く伸びた特徴的な形をしています。

グループB【二輪・鞍なし】

人吉(ひとよし)のきじ馬

 熊本県人吉市。かつては旧暦2月の春の市の露店で売られていました。多くは農家の副業として作られていたようです。子どもたちは美しく彩色されたきじ馬を買ってもらうと、曳(ひ)き回したり、馬乗りになったりして遊びました。近年は人吉の伝統工芸品として作られ続けており、今や世に最も知られたきじ馬となりました。人吉郊外の大塚というところに住み着いた平家の落人に由来するともいい、また、頭に「大」の字が書かれるのは、その村で密かに作り方を学び取った若者が、大塚での恩に報いるため記しはじめたのだとも伝えています。

多良木(たらぎ)のきじ馬

 熊本県球磨郡(くまぐん)多良木町。人吉から球磨川を遡(さかのぼ)った多良木でもきじ馬が作られていました。古くは、地元の祭りや人吉の春の市できじ馬を売りさばいていた人もいたようですが、製作者の多くは、戦後の民芸ブームの短い期間だけ生産した人々だったようです。

湯前(ゆのまえ)のきじ馬

 熊本県球磨郡湯前町。多良木から球磨川をさらに遡ると湯前です。郷土玩具収集家の間に名を知られた沢田小三郎さんが、昭和の初め頃に人吉の春の市で見たきじ馬を、見よう見まねで作り始めたといいます。下駄(げた)職人であった沢田さんは、下駄の端材(はざい)や雑木できじ馬を作り、地元の祭りで売ったり、人吉の民芸品店に卸していました。

日奈久(ひなぐ)のきじ馬

 熊本県八代市(やつしろし)。江戸時代から栄えた日奈久温泉の土産品として、明治時代にはすでに盛んに作られていたようです。温泉町らしく、素材は下駄屋さんから出されたキリの廃材でした。大まかな形は人吉のきじ馬と似ていますが、全体的に小型で、華奢(きゃしゃ)な作りとなっています。

伊倉(いくら)のきじ車

 熊本県玉名市(たまなし)伊倉。玉名の中心地・高瀬(たかせ)で開かれる3月の初市で売られたきじ車です。これも下駄屋の廃材を利用したキリ製で、顔の部分を赤く塗った素朴なものです。小さな子キジを背中に乗せたものも多く作られていたようです。

畑(はた)のきじ車

 福岡県北九州市八幡西区(やはたにしく)。昭和30年に完成した畑貯水池に水没した畑集落で作られていたと言われるきじ車を、梶畑允さんが古老たちから聞き集めた情報をもとに復元したものです。貯水池の近くには、眼病にご利益(りやく)ありとされる畑の観音があり、その参詣土産として、昭和50年頃まで作られていました。

帆柱(ほばしら)のきじ車

 福岡県北九州市八幡西区。戦後の郷土玩具ブームとともに、民芸品として新たに創作されるきじ馬も登場します。帆柱のきじ車は、上田博さんの作。小さくて色彩豊かな品で、北九州の民芸品として売り出されていたようです。

星野のきじ車

 福岡県八女郡(やめぐん)星野村。このきじ車については、詳細不明です。おそらく昭和50年代頃に、観光用の民芸品として製作されたものではないかと推測されます。

グループC【四輪・鞍あり】

清水寺(きよみずでら)のきじ車

 福岡県みやま市。瀬高町本吉(せたかまちもとよし)の清水寺の門前で売られる参詣土産です。清水寺を開いたのは伝教大師(でんぎょうだいし)最澄(さいちょう)で、大師をその場所に導いたのが一羽の雌雉子(めすきじ)であったため、参詣者はきじ車を求めて土産にすると伝えています。収集家の間では、早い時期からよく知られ、九州の名玩(めいがん)として名を馳(は)せました。
 ちなみに、最も古いきじ馬の記録と言われているのが江戸時代後期、文政年間の好事家(こうずか)たちの会合の記録『耽奇漫録(たんきまんろく)』です。そこに「雉子車」「筑後柳川産子とものもて遊ひもの」とあるのが、清水寺のきじ車だと考えられています。

三池(みいけ)のきじ馬

 福岡県大牟田市(おおむたし)三池。春の農具市として知られる三池初市で売り出されたきじ馬です。鞍を中心に丸木の前後を削り、鮮やかに彩色したもので、清水寺のきじ車とよく似ています。実際に瀬高町では、きじ車が途絶えていた明治の初め頃、かつて作られていたものとそっくりな三池のきじ馬を手本に再興が果たされたと伝えており、両者の深い関係がうかがわれます。

宗像(むなかた)のきじ馬

 福岡県福津市(ふくつし)。かつて旧津屋崎町(つやまざきまち)で宮大工をしていた小樋喜蔵さんは、地元の豊山神社(ぶさんじんじゃ)の祭礼などできじ馬を売っていたようです。そのきじ車を復元したものが、宗像のきじ馬として郷土玩具収集家の手に収められました。

グループD【四輪・鞍なし】

谷尾崎(たにおざき)のきじ車

 熊本県熊本市谷尾崎町。キジの鳴き声から、谷尾崎ではこれをケンケンと呼びます。かつては村の多くの人々がその製作に携わり、秋冬の間に作りためたものを、高麗門(こうらいもん)の市など、熊本市内の初市で売っていました。アカマツの枝の自然の形をそのまま利用するため、同じ形のものはありませんが、逆にそれが特徴となり、一見して谷尾崎のものとわかる個性になっています。


(2)きじ馬の呼び名と色彩

 きじ馬は、土地によってさまざまな名前で呼ばれていたようですが、おおまかには、きじ馬ときじ車という二つの呼び方に分けられるでしょう。
 グループAとBの二輪タイプは、どちらかというときじ馬と呼ばれることが多いようです。両者を代表する北山田のきじ馬、人吉のきじ馬は、いずれも山間部のきじ馬です。どちらもとても頑丈な作りで、大型のものも作られました。これは、子どもたちがきじ馬に跨(またが)り、まさに馬乗りになって遊んだことと関係ありそうです。
 いっぽう、グループCとDの四輪タイプは、比較的小型で華奢(きゃしゃ)な作りのものが多く、曳き回して遊ぶのに適した作りです。両者を代表する清水寺のきじ車、谷尾崎のきじ車を見ても、きじ(=雉子)のイメージがより強く出ていることがわかります。
 また、市(いち)で売りさばくことのなかった北山田のきじ馬が白木(しらき)のままであるのに対し、市で売ることを想定した他のきじ馬が鮮やかに彩られているのも、興味深い点だといえるでしょう。

休館日

開館時間
午前9時30分~午後5時30分
(入館は午後5時まで)
休館日
毎週月曜日
※月曜日が祝休日の場合は開館し、翌平日休館
※年末年始の休館日は12月28日から1月4日まで
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Facata(博物館だより)

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