アーカイブズ

No.331

美術・工芸展示室

悼みの考古学

平成20年12月2日(火)~平成21年4月12日(日)

吉武高木遺跡の「弥生王墓」
吉武高木遺跡の「弥生王墓」

はじめに
 考古学の分野で取り上げる遺跡の中で、墓や古墳など埋葬に関連する遺跡を扱うことは少なくありません。またこのような埋葬遺構から出土した副葬土器(ふくそうどき)や銅鏡、銅剣などの青銅器、装身具類などはその美しさや貴重さによって私たちの目を引き、それとともにこれらの副葬品を検討することで、墓が作られた時代の社会の仕組みや人々の死生観、葬(ほうむ)られた人々の地位や力、あるいは国際的な交流活動の手がかりを得ることができます。
 葬送には様々な儀式や祀(まつ)りが行われます。そのような多くの儀式からなる葬式全体から見れば、遺跡を発掘することによって得られる資料はそのごく一部にすぎません。しかし各時代の埋葬資料を一同に展示して比較することで、亡き人を追悼するという葬送形態の変化をより鮮明に示すことができると考えられます。
 今回の展示では、縄文時代から江戸時代までの各時代の墓と供えられた品々に注目し、亡くなった人に対してどのような思いで葬送の場に臨(のぞ)んだのか、ということについて考えていきます。


雑餉隈遺跡SR003木棺墓
雑餉隈遺跡SR003木棺墓
副葬された壺
副葬された壺(右:雑餉隈遺跡出土、左:藤崎遺跡出土)
磨製石剣
磨製石剣(雑餉隈遺跡出土)

一、供える(そなえる)
 人は、いつから埋葬された人々とともに様々な物を墓に供えるようになったのでしょうか。縄文時代の墓から勾玉(まがたま)などの装飾品が副葬品として出土した例があることから、縄文時代にはすでに身の回りの物を墓に供えていたと考えられます。おそらく亡くなった人の遺骸(なきがら)を大切に葬るという思想の登場と同時に、その人を慈(いつく)しんで副葬品を供えることが始まったのではないでしょうか。
 縄文時代の終わりから弥生時代の初めにかけて北部九州には朝鮮半島から水稲農耕の文化が入ってきました。この新しい文化は単なる農業技術だけでなく様々な生活習慣も伴(ともな)っていて、その中には農業にまつわる祭りや葬送の文化も含まれていました。このことによって弥生時代の初めに支石墓や木棺墓、石棺墓などそれまでなかった埋葬方法を取り入れた墓が新しく出現しました。このような墓に埋葬された人々には朝鮮半島の系統を引く磨製石剣(ませいせっけん)や磨製石鏃(ませいせきぞく)、小型の壺が副葬されることがありました。
 雑餉隈(ざっしょのくま)遺跡第15次調査では縄文時代晩期の夜臼式土器(ゆうすしきどき)に伴う磨製石鏃や磨製石剣を副葬した墓が見つかりました。これらの副葬品は葬送儀礼の一環として供えられたと考えられ、狩猟や戦い、あるいは豊饒を象徴するものとして供えられたものとみられます。

二、称える(たたえる)
 弥生時代前期の終わり頃に室見川(むろみがわ)の西岸に青銅製の武器や鏡を副葬品に持つ墓の一群が出現します。吉武高木(よしたけたかぎ)遺跡の「早良(さわら)王墓」と言われる墓です。吉武高木遺跡の木棺墓・甕棺墓からは多鈕細文鏡(たちゅうさいもんきょう)をはじめとする多数の青銅器が出土しました。
 その「王墓」の北側に弥生時代の前期末から後期初めにかけて千基を越える甕棺墓地が形成されました。吉武大石(よしたけおおいし)遺跡と呼ばれるこの墓地には戦いの痕跡を残す品々をもつ甕棺墓がみられます。
 吉武大石53号甕棺墓からは、銅戈と石剣の切先(きっさき)が出土しました。石剣の切先は武器にも副葬品にもなり得ないものですので、おそらく埋葬された人に刺さったままの石剣の破片と考えられています。また67号甕棺墓からは先の折れた銅矛が出土しました。これは戦いで折れた銅矛が埋められたものとも考えらます。これらの墓は戦いに参加した人々の墓と考えられています。
 彼らの墓は普通の人々と同じ規模の甕棺墓で、墓を見る限り彼らが特に権力を持っていたとは認められません。しかし彼らが持っていた青銅製の武器は当時はまだ流通量も少なく、普通の人々が持つことができなかったもので、そのような武器を持っていた彼らは特別な立場の人々とみられます。戦闘の最前線で指揮をとった司令官のような人たちだったかも知れません。
 彼らの墓に副葬された青銅製の武器は彼らの生前の戦果を称えるとともに、先の折れた武器や体に刺さったままの剣の破片は戦いの激しさを物語るものといえるでしょう。

  • facebook
  • twitter
  • instagram
  • youtube

最新情報を配信中

pressrelease

休館日

開館時間
9時30分〜17時30分
(入館は17時まで)
※2024年7月26日~8月25日の金・土・日・祝日と8月12日~15日は20時まで開館(入館は19時30分まで)
休館日
毎週月曜日
(月曜が祝休日にあたる場合は翌平日)
※2024年8月12日~15日は開館し、8月16日に休館
※年末年始の休館日は12月28日から1月4日まで

Facata(博物館だより)

  • 福岡市博物館 市史編さん室
  • はかた伝統工芸館
  • ふくおか応援寄附
  • 福岡市の文化財

福岡市博物館

〒814-0001
福岡市早良区百道浜3丁目1-1
TEL:092-845-5011
FAX:092-845-5019