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No.367

黒田記念室

博多「長橋」ものがたり

平成22年8月10日(火)~平成22年10月3日(日)

4 人魚図(龍宮寺蔵)
4 人魚図(龍宮寺蔵)

2 人魚伝説
 龍宮寺には、江戸時代の安永年中(1772~81)に寺内から掘り出されたという「人魚の骨」とともに、掛軸の「人魚図」(写真4)が残されています。「人魚図」の詞書(ことばがき)によると、鎌倉時代の貞応(じょうおう)元年(1222)4月14日に、龍宮界より人魚があらわれ、その長さは81間(1間=6尺として約147m)、「長橋」はこの人魚の魚体であり、この長橋が退転(たいてん)すれば博多の町も滅亡し、橋があれば博多の町は富貴であると書かれています。「人魚図」には、「長橋」を維持・管理するのは龍宮寺(「長橋」の橋寺(はしでら))であるという寺の主張が込められているようです。また、この人魚を寺に納めたことにより、寺名を龍宮浮御堂(うきみどう)から冷泉山龍宮寺に改め、それは「博多たち初(はじめ)なり」などと記されています。人魚伝説とともに、「博多たち初なり」という表現がたいへん気になるところです。
 この「人魚図」は、もとは永禄(えいろく)年間(1558~70)ころに制作されたようですが、「長橋」があってこその発想であり、それが人魚伝説と結びついたものと思われます。


3 観音・荒神信仰
 文明10年(1478)に書かれた『正任記』の記事をもう1度検討してみましょう。10月18日、長橋観音宝前にて普門品(ふもんぼん)(法華経観世音菩薩普門品)33巻を大内政弘の仰(おお)せによって読誦(どくじゅ)し、施物として百疋(ぴき)(1貫文)を龍宮寺の僧に遣わされ、また、10月28日には長橋荒神において、当神経(荒神経か)7巻・心経(般若波羅密多心経)333巻・神呪(しんじゅ)1反(ぺん)が読誦され、同じく施物百疋が寺に寄進されました。毎月18日は観音、28日は荒神の祭日に当たりますが、大内政弘が当時博多で信仰されていた「長橋観音」「長橋荒神」を保護しようとしていた点が注目されます。
 その2年後の文明12年(1480)、連歌師飯尾宗祗(れんがしいいおそうぎ)の紀行文『筑紫道記(つくしみちのき)』では、山口を発った宗祗が9月20日に博多に到着し、「宿りは龍宮寺と言へる浄土門の寺なり」と記し、続けて龍宮寺の方丈・庭の草木・萩・呉竹などに触れ、「前に入海はるかにして、志賀(しか)の島を見渡して、沖には大船多くかかれり」と書いています。当時の入海を前にした龍宮寺の様子がうかがえます。しかし、どういうわけか「長橋」については言及していません。


5 入海の埋立て―土留板(博多29次調査南西より)
5 入海の埋立て―土留板(博多29次調査 南西より)

4 長橋の消滅
 『筑陽記』(宝永(ほうえい)2年・1705成立)や『福岡県地理全誌』(明治5・1872~明治13・1880成立)などによると、入海は慶長5年(1600)の小早川秀秋(こばやかわひであき)、慶長18年(1613)の黒田長政(くろだながまさ)による2回の埋立てによって完全に埋まったようです。埋立て(写真5)と陸地化によって、入海に架かっていた「長橋」は、その必要性がなくなったものと思われます。また、『筑前国続風土記拾遺』によると、1回目の埋立てと同じ慶長5年(1600)、第20世住持本誉(ほんよ)(中興開山とされる)によって、入海を臨む位置にあった龍宮寺は現在地に移転され、本堂・庫裏(くり)・諸堂が再興されたと記しています。龍宮寺の移転と入海の埋立てによって、「長橋」は完全に消滅したものと推測されます。
 このように、博多の「長橋」は、人魚伝説、橋寺、観音・荒神信仰などと結びついた、中世の宗教的な橋の姿を物語っているといえるでしょう。しかし、「長橋」がいつ、誰によって造られ、どんな構造の橋であったのか、残念ながら分かりません。また、長橋の正確な位置などについても、今後の発掘成果に期待したいと思います。

(林 文理)

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