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No.371

黒田記念室

長政公はかく語りき

平成22年10月5日(火)~11月21日(日)

3、伝説化する長政の言葉
 享保(きょうほう)12(1727)年9月、6代藩主継高(つぐたか)が福岡城に家臣を集め、ある文書を披露します。それは、先に触れた長政の「三ヶ条法令」に継高自身が添書を加えたもの(資料17)でした。財政難の中、質素倹約を徹底させるために、長政の言葉が持ち出されたのです。
 また、宝暦(ほうれき)11(1761)年には、家臣の桐山(きりやま)家から、長政が書いたとされる「御定則(ごていそく)」(資料18)が家老(かろう)に提出されます。本書には、藩主としての心得と長政時代の藩財政の収支が書き上げられており、以後の藩政の手本とされました。なお、この「御定則」は既に多くの研究者によって偽書であることが明らかにされていますが、当時の福岡藩では、藩主が学ぶべき教科書として、大切に読み継がれていきます。
 やがて、明和(めいわ)5(1768)年には、福岡城天守台下に「聖照権現(せいしょうごんげん)」が創祀され、長政は神として祀られる対象になります。また、文政(ぶんせい)5(1822)年には、長政の200年忌の法要と神事が盛大に行われ、家臣と領民が「明君長政」のイメージを共有するに至りました。なお、「黒田家譜」が藩校のテキストとして家臣の子弟に広く読まれるようになるのもこの頃のことです。
 江戸時代後期には、「三ヶ条法令」と「御定則」が多くの家臣によって転写されていきます。特に前者に関しては、写本だけでなく、解説書も登場します。天保6(1835)年に著された「御法令三ヶ条広義」(資料20)は、一ヶ条ごとに詳細な解説を加えているのですが、家臣の贅沢を禁止した条目に対しては、「明遠の御眼力を以て末々を見透させ給」うとして、その先見性を賞賛しています。
 こうして、長政の言葉は藩政の節目節目で繰り返し登場するようになり、輝かしい時代に行われた政治の手本として大きな存在感を示すことになったのです。


黒田家家臣群像図
黒田家家臣群像図

おわりに
 同じ内容を話しているはずが、Aさんの場合は受け入れられるのに、Bさんの場合は拒絶される、こんなことが皆さんのまわりでもあるのではないでしょうか。―質素倹約は大事だが、我々が言っても説得力が無い。ここは長政公にお出まし願おう。さすれば、皆従ってくれるはずじゃ― 福岡城の中でそんなやりとりが行われていたとしたら、なんだか江戸時代が身近に感じられてきます。
(宮野弘樹)



展示資料一覧(資料名/時代/作者等/員数)

  •  1 黒田長政像/寛永元(1624)年3月/江月宗玩賛/1幅
  •  2 黒田長政書状/江戸初期(17世紀)/庄野半太夫宛/2通
  •  3 黒田長政書状/江戸初期(17世紀)正月8日/黒田与右衛門ほか宛/1通
  •  4 黒田長政覚書/慶長20(1615)年閏6月2日/栗山備後ほか宛/1通
  •  5 黒田長政書状/(元和3・1617年)8月1日/黒田忠之宛/1通
  •  6 黒田長政書状/(元和3年)12月11日/黒田忠之宛/1通
  •  7 黒田長政遺言帳/元和9年7月27日/黒田忠之宛/4冊
  •  8 黒田長政金銀書付/元和7年8月/黒田忠之宛/2通
  •  9 黒田長政遺言覚/元和9年8月2日/小河内蔵允・栗山大膳宛/1通
  • 10 黒田長政遺言草案/元和9年8月2日/小河内蔵允・栗山大膳宛/1通
  • 11 黒田長政遺言草案写/江戸中期(17~18世紀)/立花五郎左衛門写/1通
  • 12 黒田長政三ヶ条法令/元和3年8月/井上周防ほか宛/1幅
  • 13 桐山作兵衛書状/江戸中期(18世紀)7月20日/竹田定直宛/1通
  • 14 黒田長政覚書/(元和9年)7月21日/1通
  • 15 黒田家譜/宝永元(1704)年成立/貝原篤信ほか編/15冊
  • 16 黒田家重宝故実/享保元(1716)年写/1冊
  • 17 黒田継高御法書/享保12年9月/黒田美作ほか宛/1通
  • 18 黒田長政財用定則/元和8年9月成立/黒田忠之ほか宛/1冊
  • 19 三ヶ条法令・御遺誡御定則/江戸後期(18~19世紀)/3組6冊
  • 20 御法令三ヶ条広義/天保6(1835)年/花房正恒/1冊
  • 21 覚(三ヶ条法令遵守と倹約について)/江戸後期(18~19世紀)/1通
  • 22 黒田家家臣群像/江戸後期(18~19世紀)/1幅
  • 23 黒田長政遺言ほか写本/江戸中後期(18~19世紀)/一括

展示資料の内、1・4~12・14・16・17・19は黒田資料、22は大多和歌子氏、23は内本麟氏、小川峰登氏、肥塚薫氏、橋本友美氏、宮崎安尚氏の寄贈、15は大音和子氏の寄託です。


《主要参考文献》
松下志朗「福岡藩における財政経済政策の展開(Ⅰ)―長政遺言と第六代藩主継高の治政―」(『経済学研究』40-4~6合併号、1975年)、高木昭作「黒田長政『御遺戒・御定則』は偽書である」(『東京大学史料編纂所報』10号、1975年)、柴多一雄「黒田長政『御定則』の成立と福岡藩権力の特質―とくに中・後期を中心として―」(『九州史学』67号、1979年)、福田千鶴「慶長・元和期における外様大名の政治課題―黒田長政を事例として―」(『九州文化史研究所紀要』37号、1992年)、寺崎幹洋「黒田長政「御定則」はいつ、誰によって作られたか?」(『福岡地方史研究』40号、2002年)

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9時30分〜17時30分
(入館は17時まで)
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(月曜が祝休日にあたる場合は翌平日)
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