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No.460

企画展示室4

幔幕2 幔幕からみる若者たちの姿

平成27年11月25日(火)~平成28年1月24日(日)

行事を彩る幔幕

 幔幕は、空間を隔て、その空間を装飾するために、横に長く張り渡す大きな布です。本来は、布地を縦に使って縫い合わせたものが「幔」、横に使って作られたものが「幕」なのだそうですが、これらを総称して「幔幕」と呼ぶのが一般的です。
 かつて当館で開催した展覧会(「幔幕」平成22年9月22日~11月14日、部門別展示室4、解説リーフレット 370)では、博多区御供所町(ごくしょまち)(旧上桶屋町(かみおけやまち))の七福神図幔幕と、同区奈良屋町(あぶらやま)(旧奈良屋町)の金魚図幔幕という、たいへんに華やかで人目をひく幔幕を紹介しました。
 そのとき注目した点のひとつが、かつて幔幕は博多の人々にとって、遊び日などの浮き立つような気持ちを象徴するものであったということでした。例えば大正時代頃まで、筥崎宮(はこざきぐう)の秋祭り・放生会(ほうじょうや)が始まると、福博の人々は打ち揃って、お参りがてら千代の松原に幔幕を張り、 野宴を催すのを恒例とし、これを「幕出(まくだし)」と呼んでいました。
 こうした行事の際に、催行の実働を担うのは地域の若者たちでした。今に残る幔幕の多くは、そうした若者たちの組織が持っていたものです。彼らは、よその若者たちと張り合うようにして、華やかな幔幕をあつらえていったようです。

武者合戦幔幕(部分)

武者合戦図幔幕(部分)

幔幕と若者

 この展覧会では、ふたつの地域の幔幕を紹介します。ひとつは早良区脇山(さわらわきやま)の大門(だいもん)地区。もうひとつは東区奈多(なた)の西方(にしかた)地区です。
 脇山は、脊振(せふり)山地にほど近い早良平野 南端の農村地帯です。大門地区はそのうち福岡県道五六号福岡早良大野城(おおのじょう)線に沿った集落で、横山神社を擁する脇山の本村にあたる地域です。
 8月1日の夏祭り(夏越(なごし)祭)の際に今も使われている武者合戦図幔幕は、明治311(1898)年に大門の「青年中」があつらえたものです。筒描(つつがき)と呼ばれる染めの技法で描かれた武者絵は、色鮮やかでたいへん躍動感のあるものになっています。大門の青年たちが博多に出向いて発注したものであることは、左下隅に「染工」「博多 洲嵜町 岡田傳六」と記されていることからわかります。
 大門にはもう一枚、幔幕が残されています。青年中の武者絵図幔幕に比べると丈が短く布も薄いため、少し見劣りがするかもしれませんが、実はこれがたいへん面白いものなのです。注目すべきは幔幕の「若女中」という文字。「わかじょちゅう」ではなく、「わかおんなじゅう」と読むべきでしょう。すなわちこれは、未婚女性の集団、いわゆる娘組が大門にあったことを示す証拠なのです。
 かつて町村単位や校区単位で結成された青年女子の組織に、明治時代後半から全国でつくられ始めた「処女会」があります。しかし大門にあったような娘組は、それ以前の全く異なる組織であったと考えられています。ただし、早くに消えてしまったことなどから、残された資料がとても少なく、詳しいことがほとんどわかっていないのも確かです。
 奈多の西方地区にも「若女中」という文字の入った幔幕が残されています。
 奈多は、海の中道の付け根にあって、かつては漁業と農業を生活の糧にしてきた地域です。西方は奈多に四つある町内会のひとつで、福岡県指定無形民俗文化財の早魚(はやま)行事(青年が塩鯛をさばく速さを競う行事)を伝えています。
 西方の幔幕には、鶴と熨斗(のし)、三巴(みつどもえ)紋が描かれ、「奈多 西方 若女中」の文字が入っています。つくられたのは明治29年、大門の例と同様に、短い丈に仕立てられています。
 今やこの若女中のことを知る人はいません。しかし、地域に残された記録にもなく、人々の記憶からも消えた明治時代の若者たちの姿が、うっすらと輪郭を現してきました。幔幕は、失われた集団の存在を浮かび上がらせてくれる貴重な歴史の証人でもあるのです。
(松村利規)

主な展示資料

名称/使用地
武者合戦図幔幕/早良区脇山(大門)
お多福図幔幕/早良区脇山(大門)
鶴図幔幕/東区奈多(西方)

展覧会の開催にあたり、横山神社(早良区脇山)、西方町内会(東区奈多)に特別のご配慮をいただきました。ここに記して感謝いたします。


武者合戦図幔幕 横山神社蔵

武者合戦図幔幕 横山神社蔵

お多福図幔幕 横山神社蔵

お多福図幔幕 横山神社蔵

鶴図幔幕 西方町内会蔵

鶴図幔幕 西方町内会蔵

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休館日
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