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No.487

企画展示室2

福岡藩・武家の女性たち ─ 日々の生活と文化 ─

平成29年2月14日(火)~平成29年4月16日(日)

4、日々のくらし、遊びと学び
千歯扱

武家子供用裃(かみしも)

 福岡藩の一般の武家の日々の生活のなかでの女性の姿を見てみましょう。武家の妻女(さいじょ)の実際の役割で一番重視されたのは、主人をはじめとする家族、さらには家に仕える奉公人までに至る、衣装・衣服の用意・調達(ちょうたつ)と管理で、特に主人については、勤めや季節のたびに衣服を変えたり整える必要があり、それは、布を織ったり購入したりして用意し縫い上げることから始まり、洗濯、保管まで多岐にわたります。飯田(いいだ)家にはそれらを物語る多くの衣服の雛型(ひながた)が残されています。また大身武家の屋敷内には、機織(はたお)りや縫物(ぬいもの)から、洗濯などの水仕事まで、衣料関係で奉公する女性たちが置かれることも多く、夫人(奥方)は、それらに奉公する女性たちの仕事を指図するのも大きな役目でした。
 日々の食事は一汁一菜(いちじゅういっさい)など藩の倹約令のため案外質素(しっそ)で、夫人の指図で女性の奉公人たちが作っていました。一方、正月や盆(ぼん)の儀式での料理は、鎌田(かまた)家に伝来した「年中行事」の記録では、家族や来客、家臣たちに出すご馳走の内容が記され、配膳(はいぜん)方法、味噌(みそ)・醤油(しょうゆ)、漬物(つけもの)の作り方から、1年の予算見積りまであります。しかも種まきの記事があるのは、武家屋敷内に野菜園(やさいえん)があり、上中級武家は男性の奉公人、下級武家は主人や家族も畠作りを行ったためです。
 福岡藩では武家の娘たちは、幼い時は年長の家族、おもに母親に読み書きを教えられましたが、成長した娘たちは「しゃんしゃん」とよばれ、男子と違い、藩による女子の初等教育機関(藩校(はんこう))はなく、多くは機織りや裁縫(さいほう)などをしこまれました。師匠について裁縫を学んだ娘たちがもらった免状も残されています。
 武家にも、女子に両親が初歩の漢学を教える家もあり、とくに藩の儒学者の亀井昭陽(かめいしょうよう)の娘・亀井友(とも)(後の少琹(しょうきん))は漢詩の才能を発揮したことで有名です。このほか、絵画や書道、琴、三味線など音楽を学ぶ娘たちもいました。
 当時の武家の娘たちが、雪だるま、凧揚げで遊ぶさま、三味線(しゃみせん)を練習する様子、母親と子供がご馳走をいただく様子などは、福岡藩士の妻だった野村(のむら)もと(後の望東尼(ぼうとうに))が戯画に残しています。

5、家族・親族の記録と記憶

 武家の女性は10代後半には早くも他家に嫁いだり、婿(むこ)養子を取る場合もありました。そして出産、子育て、家内の年中行事やお祝いごと、数多くの先祖たちの法事(ほうじ)・供養(くよう)などで生涯を過ごし、当主が跡継ぎに家督を譲ると引退します。時の古文書で、そのようなライフサイクルの中で、武家女性を中心に婚家(こんか)の一族や実家(じっか)一族との親密な交流や数限りない付き合いをしていた様子が窺えます。老年になっては、現当主の母として家族と一族に長寿(ちょうじゅ)を祝われる女性もありました。藩の御抱甲冑師(かっちゅうし)・田中家に嫁いだ平野國臣(ひらのくにおみ)の妹・槌子は明治になっての老年期の肖像が残されています。
 家族の間での特別な思いを残した記録もあり、亀井少琹(友)が12歳のとき、昭陽が烽火番(のろしばん)勤めのため辺鄙(へんぴ)な山地に出発するのを、母と見送る姿が父の日記には残されています。野村もとは、家督を譲った主人の貞貫とともに向ヶ丘に隠棲(いんせい)し、その日々の生活を、のちに「向陵(こうりょう)集」という和歌集に残しました。藩の国学者・青柳種信(あおやぎたねのぶ)は、死去した土女(とめ)夫人のため、彼女を忍ぶ和歌を万葉仮名(まんようがな)で刻んだ墓碑を作っています。

6、文芸と手芸の世界

 和歌は武家の女性たちの教養の一つで、家族の間で楽しむだけなく、他の武家女性たちとの親しい交流の場にもなりました。野村もとのように、また文芸の道を深めた女性にとり、自分をあまり表に出せなかった当時の女性たちの、大切な自己表現の場でもあったといわれます。福岡藩には華道(かどう)を嗜(たしな)む文化もあり、気楽な姿で華を生ける三奈木黒田家の奥方の肖像が残されます。手芸としては端切れを使った「置(お)きあげ」細工が有名で、野村もと(望東尼)も古典(こてん)に題材をとった懐紙入れや扇を残しています。
(又野 誠)

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