平成6年10月4日(火)~12月11日(日)
▲タバコパッケージ |
▲版型 |
わが国の1930(昭和5)年前後は、現代の生活に欠かすことのできない電気やガス、水道が都市に飛躍的に普及した時期にあたります。これらが諸産業の発達を促したことは勿論ですが、都市生活者の生活も大きく変わりました。また交通網が発達し、地方鉄道が開通して、人々が都市へ出かけて行くようになったことも、生活の変化を一層促しました。都市にはデパートや商店街があり、人々は自由に商品を見て回ることができました。また常設映画館に入れば、いつでも日常とは違うストーリーの中に身を置くことができました。この時間は「見る」ということが、それまで(大正初期頃まで)に比べ、より大きな意味をもつようになり、そうした時代にふさわしい「形」と「デザイン」が生まれました。
このような社会背景のもとで作られたデザインの特徴として、幾何学的な文様または直線的なデザイン(線のタッチはフリーハンドではなく定規をあてたようなもの、曲線もコンパスを使用したような、規則的なもの)が流行したこと、ガラスや漆器などの質感の硬いものが好まれたこと、デフォルメやクローズアップの手法が用いられ始めたことを今回とり上げました。明治以来使われてきた植物のモチーフも、昭和初期のものは図案化がすすみ、先述のような特色が顕著に見られます。
また人物のデザインでは、都市化の進展に伴う2つの傾向が見られました。1つは、都市に出現したモガ(モダンガールの略)に見られた断髪や洋装を強調したもの、もう1つは小家族化によって、その存在があらためて認識されるようになった子どもを、親子で描いたものです。
こうした特色は日本の戦後社会にも受け継がれ、今日のデザインの基礎ともなりました。今回の展示では、昭和初期の市民文化の一端を御覧いただくとともに、1930年前後の「形」や「デザイン」を見直すことで、今日のデザインの源を探ってみたいと思います。