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No.097

黒田記念室

長崎製輸出漆器展

平成8年7月16日(火)~8月18日(日)

2. 青貝細工花鳥文小机
2. 青貝細工花鳥文小机
5. 青貝細工花鳥文箱
5. 青貝細工花鳥文箱
3. 青貝細工出島図箱
3. 青貝細工出島図箱
14. 出島図(川原慶賀作)
14. 出島図(川原慶賀作)

 天文18年(1549)、鹿児島にフランシスコ・ザビエルが上陸し、わが国にキリスト教を伝えました。来日し布教活動にたずさわった宣教師たちは、当時流行していた豪華な高台寺蒔絵(こうだいじまきえ)に魅せられ、自ら図面をひくなどして京都の蒔絵師に祭具などを発注、制作を依頼しました。それは聖画を入れる厨子(ずし)とか聖書を置く書見台、聖なるパンを入れる器などでした。

 次いでその美しさに目をつけたのが東インド会社の貿易商でした。彼らはヨーロッパで売れそうな意匠の商品を発注しました。そのうち今日ヨーロッパの各地によく残っているものに洋櫃(ようひつ)があります。

 これらの漆器は南蛮漆器(なんばんしっき)とよばれています。そこに描かれている文様は、すき間がないようにぎっしりと草花や樹木が描かれ、そのなかに鳥や獣などが配されています。そして蒔絵ばかりでなく美しい光沢をもった貝を使用した螺鈿(らでん)も多用しています。

 寛永16年(1639)、徳川幕府は「鎖国」を完成し南蛮貿易は終わります。以後、わが国がヨーロッパと接触できる場所は長崎の出島に限られました。交易できる国もヨーロッパはオランダ国に限られました。そしてその長崎港の警護役を福岡藩主黒田氏と佐賀藩主鍋島氏は隔年交替で担当しました。

 鎖国中も出島からオランダ経由で多くの漆器が輸出され、イギリスでは17世紀末から18世紀初頭にかけて、工芸品製作業者が損害を受けたと東インド会社に抗議をしたほどでした。このころの輸出漆器は南蛮漆器とちがって、螺鈿を用いず黒漆地の空間を残し山水文様などを描いたものでした。それは紅毛漆器(こうもうしっき)とよばれました。

 18世紀末から近代にかけて、長崎の出島のオランダ商館からの注文で、長崎で作られ輸出された漆器があります。それまでは輸出用漆器は京都で制作されていました。しかし遠隔地でもあり細かい注文がつけにくいこともあって、京都の町よりも西洋的な絵画表現に抵抗感が少なく、ある程度の下地もあった長崎という町の特殊な環境が、ヨーロッパ製の銅版画を手本にして蒔絵や青貝細工を使って西洋絵画を漆芸で作るということにあっていたのでしょう。

 製品としては、ひとつにヨーロッパの名所図、戦勝記念図あるいは肖像画のエッチングをそっくり蒔絵で写したプラーク(壁掛け)があります。それは素地に銅版を使い、これに黒漆を焼付け、蒔絵でもって、なかには螺鈿を用いたものもありますが、絵を克明に描いた長方形や楕円形ないし円形をしたものです。そして壁にかけるように金具がついています。

 もうひとつは赤や青、緑といった色を貝の裏につけた青貝細工を器面全体に加飾した装飾性の高い漆器です。これらは京都でつくられた大型の箪笥(たんす)形キャビネットみたいな一点豪華主義的なものではなく、道具箱や煙草(たばこ)入れなどのような量産できる小物が主流でした。

 ところで長崎からの輸出漆器で注目すべき人物に「ササヤ」がいます。神戸市立博物館所蔵のプラークに「1792年に日本のササヤが漆加飾した」という銘文(オランダ語)があります。また、出島出入りの商人へのオランダ商館員の支払い記録、あるいは「小間物問屋 笹屋勝次」といった記録などから、「ササヤ」は漆器製造者ではなかったかもしれませんが、少なくともこの時期、漆の工房をかかえていたか、密接な関係にあった業者と思われます。

 いずれにしろ、江戸時代後期から明治にかけて長崎の出島を舞台に、ヨーロッパの絵画と日本の漆器技法が結合して、いままでにない大変派手な漆器が制作されたことは、わが国の漆工史上、東西の美意識の融合という点で看過できないことです。

17. 肖像蒔絵プラーク(ゴルディアヌス1世) 17. 肖像蒔絵プラーク(ヨーゼフ2世)
17. 肖像蒔絵プラーク
(ゴルディアヌス1世)
17. 肖像蒔絵プラーク
(ヨーゼフ2世)

用語解説

蒔絵(まきえ)

 漆器の装飾方法のひとつ、漆で文様を描き、それが乾かないうちに金銀などの金属粉や色粉を蒔いて付着させて文様をつくる方法。

螺鈿(らでん)

 夜光貝やアワビ貝などの殻を砥石で一定の厚さにし、文様に切って木地・漆地の面に貼りつけたり嵌め込んだりして、研ぎ出す装飾方法。

青貝細工(あおがいざいく)

 螺鈿の一種で、薄い貝を使用したもの。

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休館日
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(月曜が祝休日にあたる場合は翌平日)
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