平成12年11月28日(火)~平成13年1月27日(日)
●羽織に映えるお洒落(しゃれ)ごころ
羽織には様々な生地が見られます。中でも羅紗は、武家の陣羽織や火事羽織によく用いられています。羅紗は地が厚く防水性・防寒性に優れた毛織物で、色合いもくっきり鮮やかなため、機能と意匠美を兼ね備えるべき武家の衣装として最適だからです。
展示されている羽織のうち、No.2の陣羽織は、葛布(かっぷ)で仕立てられています。葛布は、葛(くず)のツルからとれる繊維を織ったもので、熱や水にも強く、蚊帳(かや)にも使われます。その軽くてシャリっとした質感が、陣羽織に適当と考えられたのでしょう。
No.1 陣羽織 紫呉呂地 No.2 陣羽織 萌葱葛布地 |
陣羽織は、仕立てに異素材を組み合わせることが多く、その組み合わせにもお洒落のセンスが反映しています。例えばNo.1の陣羽織は、紫呉呂(ごろ)(薄手の毛織物)の身頃に白地銀襴(ぎんらん)を配し、群青の襟留(えりど)めを付けています。そして光沢のある萌葱(もえぎ)の絹を裏地に用い、表地の紫と鮮やかな色彩のコントラストをうみだしています。
No.7、No.8の羽織は、和紙で作られています。和紙で作った衣を紙子(かみこ)といいますが、軽く風を通さず暖かいため、上着、夜着(よぎ)などに重宝しました。江戸時代の百科事典『和漢三才図会(わかんさんさいずえ)』に紙子の製造法が紹介されており、和紙を蒟蒻糊(こんにゃくのり)でつぎ、柿渋(かきしぶ)(渋柿の実の汁)を塗り、乾燥させて足で踏み、さらに手で揉(も)んで柔らかさを出し、一晩夜露に晒(さら)して、柿渋の臭みを抜いてから衣服に仕立てたことが分かります。絹などに比べて質素のようにも思えますが、小紋や更紗(さらさ)ふうの文様を染めたり、金・銀の箔(はく)を散らした贅沢なものも作られました。No.7、No.8も、襟(えり)や袖口(そでぐち)、肩まわりや裾(すそ)の隅に補強もかねて更紗や金襴を配するなど、凝った仕立てになっています。紙子羽織を遊女の誓詞(せいし)(心変わりをしないと誓った証文)を何枚も継ぎ合わせて仕立てたという、イケナイ男もいたとか……。
町人の間では、羽織の裏もセンスの見せどころです。黒羽二重(はぶたえ)の羽織の裏に派手な色柄物や描き絵を施した絹を用いることが粋(いき)とされました。この傾向は、明治以降も受け継がれました。No.11の羽織には、上海事変という時事ネタを洒落たデザインにまとめた裏地を使っているのを見ることができます。
(杉山未菜子)
No.11 羽織 濃鼠縮緬地 |
出品資料一覧
No.1
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陣羽織 紫呉呂地 |
一領
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裄 26.0 丈 84.8 | 樋口潤二氏寄贈 |
No.2
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陣羽織 萌葱葛布地 |
一領
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裄29.3 丈 96.3 | 大多和歌子氏寄贈 |
No.3
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陣羽織 白精好地 |
一領
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裄 29.0 丈 88.5 | 山中榮一氏寄贈 |
No.4
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陣羽織 藍木綿地 |
一領
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肩幅 61.5 丈 86.0 | |
No.5
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火事羽織 黒羅紗地 |
一領
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幅 130.8 丈 93.3 | 今泉濬氏寄贈 |
No.6
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火事羽織 藍木綿地 |
一領
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裄 65.0 丈 88.3 | 吉井喜雄氏寄贈 |
No.7
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紙子羽織 小紋紙地 |
一領
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裄 62.0 丈 84.7 | |
No.8
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紙子羽織 渋紙地 |
一領
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裄 65.0 丈 102.5 | |
No.9
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夏羽織 茶紗地 |
一領
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裄 61.5 丈 95.3 | |
No.10
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羽織 白綸子地 |
一領
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裄 64.3 丈 79.0 | |
No.11
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羽織 濃鼠縮緬地 |
一領
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裄 68.5 丈 87.0 | 前田盛幸氏寄贈 |