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No.223

黒田記念室

博多祗園山笠展12-幕末の人形師資料と山笠図-

平成15年5月27日(火)~7月21日(日)


博多祗園山笠巡行図
(人形部分の拡大)

 今年の博多祇園山笠(はかたぎおんやまかさ)展は、本館が収蔵している黒田資料の中から、幕末期の華やかな山笠図を展示します。
またこれに併せて、本館が収蔵している、幕末から明治初めの博多で活躍した人形師・白水(しろうず)氏関連資料も展示します。これらの資料は、白水氏の子孫で、現代の有名な博多人形師でもあった故白水八郎(はちろう)氏によって保持されていたものや、収集されたものが中心で、福岡県指定の有形民俗文化財にもなっている作品も含む貴重なものです。
 現代では、人形が中心となった低い舁山(かきやま)から、商店街を彩る高い飾(かざ)り山(やま)まで、多くの博多人形師が、それらの制作に携わり、すばらしさを競っていますが、白水家資料には博多人形師の人々と、山笠との関わりのルーツの一つを見ることができるのです。


江戸時代の山笠の飾り人形


山笠図(大正8年)

 江戸時代の山笠のことを書いた『追懐松山遺事(ついかいしょうざんいじ)』(明治43年 山崎藤四郎(やまざきとうしろう)著)によれば、この時代の飾り人形は博多土居(どい)町(現福岡市博多区)に住んでいた人形屋の小堀(こぼり)氏が扱っていました。小堀氏の祖先は室町時代に京都から博多へ移り、それ以来、山笠の人形を作り始めたと言われ、そのため小堀氏は人形の頭(かしら)を様々に持っていたそうです。
 山笠を立てる当番となった、博多の中の6つの流(なが)れの町々(当番町)は、毎年そろってこの小堀氏方へ出かけ、一番山から六番山までの、山の順に人形の頭を選ぶ慣わしでした。しかし五番、六番の山は希望の人形の頭が選べず、新しい人形の頭を作ってもらう事もあったそうです。
 人形の頭を選んだ各当番町は、白木木綿一反、浴衣(ゆかた)、帯(おび)(博多織男帯)、足袋一足をつけて小堀氏に渡すと、小堀氏方でそれぞれの人形の支体(支えの体)を作り、浴衣を着せ帯をつけ、両足として黒木木綿で脚半(きゃばん)の様なものを作り、足袋をはかせ、その人形の前に榊(さかき)や御神酒(おみき)をそなえ、さらに旧暦(きゅうれき)5月28日に櫛田(くしだ)神社の神職のところに持っていって、お祓(はら)いをして、それぞれの当番町に引き渡されました。そしてこの夜は、大勢の見物客でにぎわったそうです。
 さて旧暦6月1日から山笠がだんだんと飾り付けられ、10日の本飾りの日に、それまで浴衣のままの人形にも衣装が着せられ、その他の飾りとともに山笠に置かれます。そしていよいよ15日朝の追山(おいやま)を迎えるのです。


白水家資料について


「武悪」面型

 ついで江戸時代後期から幕末~近代に博多で人形師として活躍した白水仁作(じんさく)、同武平(ぶへい)の残した資料を紹介します。
 現在の博多人形は、粘土で原型を作り、石膏で型をとり、その型に粘土を詰めて型を抜き、生地(きじ)(人形)を制作し、素焼きにして完成させます。この大量生産に向いた製法は文化・文政期(1804~29年ごろ)に始められ、明治の終わりまでに完成したとされ、これが現代の博多人形のルーツといわれます。白水家資料の中で人形の型として残るのは、江戸時代後期の白水仁作の制作した「武悪(ぶあく)」面型、その孫白水武平が安政4(1857)年に制作した「鍾馗(しょうき)」や、翌年作の「三国志」の豪傑関羽(かんう)、張飛(ちょうひ)の面型などです。いずれも当時の一般庶民に、飾りや玩具として楽しまれたものです。
 このほか幕末~近代に白水氏やその他の人形師が制作した、操(あやつ)り人形の頭、腕などが残されます。いずれも桐材に色を塗った手作りのもので、この頭、手足に着物をつけて操り人形を作ります。扱う人間は、操り人形を幕などの上から出し、着物の中に手をいれて、頭、手などを操り、浄瑠璃、三味線にあわせて演技させるもので、当時は繰り芝居、あるいは発祥地の名をとって文楽といわれました。江戸~明治時代の中頃までは、江戸(東京)、大坂などの大都市はもちろん、地方の各地の祭礼や行楽地では操り芝居の小屋が掛けられて上演され、広い範囲の人々に娯楽、芸能として楽しまれていました。
 さて明治も半ばには、山笠の祭礼も博多の都市化、近代化によって変化し、とくに舁山の高さなどは低くなってしまいました。その直後の様子がよくわかる絵図として、明治から大正期の白水氏による山笠絵図などが残されています。いずれも明治以降に、博多人形師として活躍しながら、さらに山笠の制作も依頼されたといわれる白水氏のより広い活動の成果であり、さらには近代になってからの、博多人形師の人々と山笠の関わりの深まりも窺えます。
(又野誠)

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