平成18年7月19日(水)~9月18日(月・祝)
江戸時代末期は、騒然とした世相を反映してか、幽霊や妖怪といったオカルト的なものが、文学や演劇、美術など庶民文化の様々な分野でひとつのブームを形作った時代でした。中でも浮世絵は、怪異な世界をものの見事に表現し、当時の人々が感じていたこの世ならぬものの姿を生き生きと伝えてくれます。
この展覧会では、いくつかのテーマのもと、江戸時代末期から明治時代にかけて活躍した代表的な浮世絵師たちが腕を競った「おばけの浮世絵」をご紹介します。暑い夏を、博物館で 涼しくお過ごしください。
幽霊と歌舞伎
24渓斉英泉 幽霊図 |
日本の幽霊の代表選手といえば、お岩さん。彼女が登場する『 東海道四谷怪談(とうかいどうよつやかいだん) 』は、鶴屋南北(つるやなんぼく)が歌舞伎狂言として創作したもので、1825(文政8)年に初演されました。初演時には、歌舞伎『 仮名手本忠臣蔵 ( かなでほんちゅうしんぐら ) 』の第2演目として、『忠臣蔵』の幕間に演じられ、登場人物のほとんども『忠臣蔵』の登場人物でした。ところがその後、『四谷怪談』は単独の演目として再演されるようになり、内容もより怪談の要素や舞台仕掛けの奇抜さが重視されるようになっていったそうです。 つまり、話の本筋よりも怪談としての魅力が人気をさらったのです。こうした怪談ものの歌舞伎は夏芝居として次々と上演され、名優尾上菊五郎(おのえきくごろう)をはじめとした役者の当たり役となりました。そもそも歌舞伎とともに発達してきた浮世絵版画が、幽霊に扮した役者絵を描くことは当然で、絵師たちは恐ろしげな舞台姿を強調し、「幽霊画」という新しいジャンルを世に送り出したのです。
また、今回展示されている作品の中には、提灯(ちょうちん)の部分や杉戸(すぎと)の部分がめくれ、下から別の図柄が現れる「 仕掛絵(しかけえ)」が含まれていますが、これも歌舞伎の舞台で実際にこの ような仕掛けがあったのを応用したものと思われます。いずれにせよ、浮世絵版画における「幽霊画」は、いわば役者絵の一種ととらえることもできるのです。
1百物語 お岩 |