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No.288

考古・民俗展示室

「むすび」のかたち

平成18年11月7日(火)~平成19年1月21日(日)

「むすび」の魅力


水引飾り

 私たちのくらしのなかに、数多(あまた)あるもの。それが「むすび」です。わが身を振り返ってみれば、「縁結び」「結びつき」など身近な言葉としても使われており、なくてはならないものであることが分かるでしょう。
「むすび」とは、あるものを固定することを指します。万葉集の時代には、結ぶことによって、人の思いを、そこに留まらせる意味があったようです。

 結び」は、いろいろな形を生んでいきます。熨斗(のし)にみられる水引結(みずひきむす)びなどは、人生の様々な場面において結びが重要なものであったことを現在に伝えています。
 ところで、「むすび」は、今で言うネットワークの意味も持っていました。それまで繋がりのなかった人々を繋ぐものです。結集という言葉などはそれです。ばらばらの繋がりをまとめる「結束」で大きな力を発揮することになるのです。ここでは、古くて新しい「むすび」の魅力を紹介してみたいと思います。


斎(いわ)い込める「むすび」


淡路の野島ガ崎の浜風に、
妹が結びし 紐吹きかえす
               万葉集巻三・二五一

 旅路にある人が、「妹(いも)」つまり愛しい人を思い歌ったものです。そのきっかけになっているのが「むすび」です。結んだ紐に妹を思い出す力が籠(こ)もっていることが分かります。「妹が結びし紐」という句は他の歌にも見られる慣用句です。この時代、愛しい人のために自分の魂の一部を結ぶことで斎い込めるという習慣があったことを示しています。この習慣は、けっして古い時代のことばかりとは言えません。今若い人の間で流行っているミサンガなどと呼ばれる腕に結ぶものなども、海外から入ってきたものではありますが、その根底には、日本人の持っている「むすび」に対する思いが反映されているということができるでしょう。
 むすびの原点は、神祭りにあります。野山の神に供え物をするときに使われた器は藁で簡単に巻いて作られました。そのかたちを「皿結(さらむす)び」と言いました。巻いた藁の最後を立てるようにする結び方です。汐井(しおい)ツトにはそれがはっきりと現れます。海の砂をこのツトに入れて、アマモという海草で螺旋状にくるくる巻いています。海水の清めの力を巻いてむすぶことで、斎い込めているのです。もっと身近な例でいうと、正月の注連飾(しめかざ)りが挙げられます。新年を迎えるための「むすび」です。丸く結んだ簡単なものは、「輪注連(わじめ)」と呼ばれますが、神に供え物をする「皿結び」と同じ意味になります。田仕事などに使われる足半(あしなが)の鼻緒の結び方「角結(つのむす)び」も端を立て角のようにしますが、これも同じ意味を持っています。つまり、「むすび」に遠方からやってくる尊い存在を留め歓待していることになるのです。
 また正月には、牛の曳(ひ)き緒(お)を綯(な)い、結び目をつくってまとめておきます。結ぶことに収納以外の意味はないといいますが、これとて、「むすび」に豊作・牛馬安全の願いを予め斎(いわ)い込めていることになるように思います。「むすび」はある力をそこに留めることができるかたちなのです。


牛の曳き緒
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