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No.297

考古・民俗展示室

中国の古代印章2-印章に映された古代社会-

考古・民俗展示室

三 印章に見る 戦乱衰亡せんらんすいぼう)
   秦や漢の時代の印章技術は非常に高いものでした。秦・漢王朝の下で国土が統一され、社会が安定して平和になり、多数の人々が文化・技術に従事できたのがその理由です。
   これに対して漢の後の三国・南北朝時代といった戦乱の時代には印章技術は衰退し、字体などは漢代の印章よりも劣ったものが多くなります。これは政情不安のため安定した文化を育てることができなかったためです。反面、印章の形が多様性を増すのも戦乱の時代の特徴です。



時代による字体の違い(右)後漢(左)五胡十六国時代

四 印章をめぐる精神世界
 印章の多くは官印としての官職名や、私印としての姓名を刻んだものですが、その他におめでたい言葉を刻んだ印章や、宗教的な言葉、ことわざや格言のような語句を記した印章も少なからず見られます。この種類の印章はすでに戦国時代には出現していて、秦・漢の時代まで引き続いて作られます。その多くは当時の人々が常に身につけていたものです。また、めでたい語句を書いた印章はそれ自体が魔除(まよ)けの力をもつものと考えられ、お守りとして身につけられていたものです。
 また秦・漢代は安定した社会のもとで手工業や商業が発達し、貨幣の流通量が増大した時代でもあります。そのような時代性を反映して印章にも富や財を願う語句が多く見られます。またこの時代の人々の欲求は富だけではなく官位や出世などにまで及んでいます。
 儒教(じゅきょう)は孔子(こうし)(BC551~BC479)によってまとめられた思想体系で、その主旨は仁や礼の道を実践し、上下の秩序を尊ぶものでした。儒教は戦国時代や漢の時代に広く普及し、多くの人々に思想的な影響を与えました。そのため印章のなかには儒教思想が反映された印文のものもあり、修身的な言葉の起源が儒家の経典にみられる場合があります。
 春秋・戦国時代に成立した 陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)にともない、漢代には方位を司る四神(ししん)(玄武(げんぶ)・青龍(せいりゅう)・朱雀(すざく)・白虎(びゃっこ))を吉祥(きっしょう)の守護神として鏡や印章に刻むことが流行しました。四神の他にも実在や架空の動物を印章の鈕や印面とすることもありました。この種の印章は装飾に富(と)むものが多くみられます。
 中国印章の世界は金印などの官印からの視点だけではなく、自由な発想で作られた私印からも見ることができ、当時の人々の日常の表情を垣間見ることができるのです。
 ここでさらなる疑問が。日本では、中国のような印章は作られ、使われたのでしょうか。
 福岡市中央区の 鴻臚館(こうろかん)跡からは平安時代の「開」と書かれた石製の印章が出土しています。また、福岡市西区の元岡(もとおか)・桑原(くわばら)遺跡では奈良時代から平安時代に使われたと考えられる「酒」と書かれた土製の印章が出土しており、この2例が福岡市で出土しています。日本では奈良時代以降に印章の事例が増加しますが、その背景には中国の印章の影響があったと考えられています。
 これら日本出土の印章をふくめ、当館所蔵の印章を今後も機会を見つけて皆様にご紹介したいと思います。
(大塚紀宜)

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休館日
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