平成19年7月24日(火)~9月17日(月祝)
はじめに
かつて日本には数多くの”ばけもの”が「存在」していました。それを物語るかのように彼らの呼び方は、物の怪(もののけ)、怪物、妖怪、妖獣、妖物、妖魔、妖鬼、妖異、幻獣、怪獣、衆魔、魔物、おばけ、魑魅魍魎(ちみもうりょう)、と多種多様です。その種類についても、河童(かっぱ)、鬼、天狗(てんぐ)、人魚、龍といった全国に共通して存在する想像上の生き物から、特定のある地域だけに存在したローカルなばけもの迄、実に様々でした。今回は特に江戸時代の福岡藩領内に場所を限定し、また、ばけものと人々との関係に注目して展示を構成しました。果たして、福岡にはどんなばけものがいて、人々は彼らをどのように捉えていたのでしょうか。
1、ばけもの大集合
当館が所蔵する「怪奇談絵詞(かいきだんえことば)」と題した絵巻には福岡のばけものが多数登場します。ここでは全部で 34種類のばけもの話の内、福岡に関わる8件を紹介します。当時では珍しかった生き物の話や科学的に説明できる現象も含まれていますが、まずは、ばけものの多様性の事例として紹介します。
○唐人町(とうじんまち)のくちばし犬
くちばし犬(右)と白いばけもの(中央)
1、怪奇談絵詞より |
寛保(かんぽう)(1741~43)の頃、福岡唐人町の犬が図のような子を産んだ。飯、魚を食べたが、早々に死んでしまった。頭は嘴太烏(はしぶとがらす)のようであった。
○糟屋郡の白いばけもの
ある夜、糟屋郡の猟師が夜待に行った帰りに時雨(しぐれ)に遭った。後ろから風の音がするので振り返ると、約2メートル四方の白い綿のような塊があった。近づくと目や鼻があり、ゆらゆらとして水海月(みずくらげ)のようだった。800メートル程追い掛けたが逃げられてしまった。狸の仕業らしいとのことである。
○穂波(ほなみ)郡の老婆の妖怪
老婆の妖怪 1、怪奇談絵詞より |
穂波郡にある大きな寺があった。大変繁盛して宿泊する人も多かったが、奧の座敷で寝た者は皆なぜか自害して死んでしまった。そのため、今ではそこで寝る者はいなくなったが、ある男は、住職が制止したにもかかわらず、一晩寝てみようと言って入っていった。すると、寝入りばなに鮫肌(さめはだ)の老婆が枕元に現れて男をくすぐりはじめた。男は扇子で老婆を打ち付けたが、なぜか自分の体を叩いていた。幾度も叩いたが自分の体に当たるばかりであった。死んでしまった人々は皆このようにして自身を切り付けてしまったのであろう。
○上座(じょうざ)郡の野女(やじょ)
野女 1、怪奇談絵詞より |
延享(えんきょう)(1744~48)の頃、上座郡赤谷(あかだに)村奧の谷川で、薪を取りに出た久六という男が野女に襲われた。野女は何度も飛びかかってきたが、力持ちの久六は反対に投げ返してやった。宿に戻った久六は気絶してしまったので、皆であわてて薬や水を与えた。生臭いことこの上なかった。
○宗像(むなかた)郡の怪獣
本木の怪獣 1、怪奇談絵詞より |
宗像郡の本木(もとぎ)村で怪獣が現れて人々を悩ませた。様々に化け、また数も多かったが、名の知れない怪しい獣は2匹であった。衣笠(きぬがさ)家の図にその姿が描かれている。大きさは犬程あるということだ。
○宗像郡鐘崎浦(かねざきうら)の海獣
鐘崎の海獣 1、怪奇談絵詞より |
文化年間(1804~18)の頃、宗像郡鐘崎浦に図のような生き物が岩の上に昼寝していた。浦人は棒などを持ち寄って集まり、近くにあった半桶(はんぎり)で獣の頭を押さえようとした。しかし、桶を奪われるなどして抵抗されたので、大勢で近づいて棒で叩き殺した。その大きさは約3メートル程もあったという。その後福岡に運んだ。
○上座郡のうぶめ
うぶめ 1、怪奇談絵詞より |
上座郡の庄屋源蔵の女房は難産のため死んでしまった。7日後、女房は毎晩のように源蔵宅の玄関に立ち泣いていた。うらめしいこと言葉に言い尽くせないほどであった。
○那珂(なか)郡の見越入道(みこしにゅうどう)
見越入道 1、怪奇談絵詞より |
那珂郡の百姓はある用事のため村から村へ夜道を歩いていた。すると、よく知られた魔所(ましょ)にさしかかった。そこで図のような見越入道が後ろから追い掛けてきた。しかし、この百姓は気丈な人物で、うしろざまに鎌で相手の足を切り、組み合って難無く入道を仕留めた。よく見れば年老いた狸であった。