平成20年11月18日(火)~平成21年2月1日(日)
はじめに
「ふくおか民俗カタログ」は、福岡市域で育まれ、受け継がれてきた数多くの祭りや年中行事、人々の暮らしの仕組みや約束事、あるいは生きるための知恵や祈りの姿など、さまざまな民俗を通して、福岡の地域的な特色を再発見していくシリーズです。
その第3回目は、福岡の川や池などで行われてきたさまざまな漁撈(ぎょろう)、すなわち魚とりのことをご紹介したいと思います。
福岡平野を流れる川やあちこちに造られた池で、人々はアユ、ウナギ、シロウオ、ボラ、コイ、フナなど、様々な魚を多様な方法でとってきました。ここではその中からいくつかの特徴的な漁法を紹介し、併せてそれらの漁法を受け継ぎ、楽しんできた人々の姿も取りあげていきます。跳ねる魚の姿に心躍らせたあの頃の思い出に浸るもよし、魚とりの技の奥深さに改めて驚きを感じるもよし。あるいは地域の環境を考えるきっかけにしてもいいでしょう。みなさんには、それぞれの視点で自由にご覧いただきたいと思います。
「川魚取り」(広田久雄) |
一、ときめきの記憶
南区警弥郷(けやごう)の故広田久雄さん(大正10年生まれ)は、子ども時代の魚とりのようすを次のように書き残しています。
夏の夕方になると、上級生の子は、うなぎてぼやちょうちんたぶを小川の岸や、那珂川の岸につけに行く。翌朝暗いうちに上げに行く。獲ものを期待する…。胸がわくわくする。うなぎが入っていると有頂天だった。ちょうちんたぶにはナマズや大ブナが入っていた。昼間は那珂川に蝿取りビンを仕かけるとハヤが沢山とれていた。夏から秋の小川は魚取りが楽しかった。警弥郷付近の川にもフナ・ハヤ・コモツキ・シビンタ・ハゼ・ドンポ・ナマズ・ギュギュウ・カマツカ・ギシネラミ・ドジョウ。いろんな魚がいた。川カニもいた。シジミ貝やビナもいた。(広田久雄『ふるさと絵史』)
「胸がわくわくする」感じに突き動かされ、子どもたちはくる日もくる日も川へ出かけて行きました。それは那珂(なか)川だけではありません、市内を流れる多々良(たたら)川、御笠(みかさ)川 、樋井(ひい)川、室見(むろみ)川、瑞梅寺(ずいばいじ)川、そしてあちこちの小川でも繰り広げられていた光景です。子どもたちはそこで魚の動き、川の匂い、季節の移り変わりを肌で感じていきました。そして何より「楽しみ」の見つけ方を学んでいったのでした。