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No.381

美術・工芸展示室

染織シリーズ9 “幽玄”の光と色

平成23年2月22日(火)~4月17日(日)

5.唐織紅萌葱茶段花入菱花車文様
5.唐織紅萌葱茶段花入菱花車文様
3.長絹紺地唐草花丸文様
3.長絹紺地唐草花丸文様

◆「からおり」の美しさにせまってみる
 唐織は、先ほども言いましたが、小袖形の装束の代表格です。女性あるいは貴族の若い男性の役柄に用います。そもそもの名前の由来は、「唐(から)わたりの織りもの(で仕立てた服)」でしょう。しかし、「唐織」という装束に用いられる織物は、実際には、平安時代には国内で行われていた文様(もんよう)織りの技法を発展させたものだとされていますから、その名の指すところの実際は「舶来品かと思うほどハイテクな織りもの」といったところでしょう。
 さて、唐織の見どころは、金糸や色とりどりの緯糸(ぬきいと)から織り出された華麗な文様です。文様の部分の糸は、生地(きじ)表面を長く浮いているので、あたかも刺繍(ししゅう)のように見えます。№5の唐織を見てみましょう。ぱっと目につくのは、菊や桔梗(ききょう)の花をたたえた籠(かご)をのせた花車(はなぐるま)のデザインです。袖や身頃(みごろ)に、規則正しく配されている花車は、花の色、葉の色、籠の網目(あみめ)の色、車の色、それぞれ、一つとして同じ配色のものがありません。また、花車文様に対して、地にあたる部分には、小花の入った菱(ひし)文様が地紋として織り出されており、さらに、生地自体も単色ではなく紅、萌葱(もえぎ)、茶と三色に分かれています。同じ意匠をつぎつぎに色違いにしたり、細かい文様のうえに大きな文様を重なるように織り出したり、経糸(たていと)を染め分け緯糸の色を違えて生地を色分けしたり、と、手間のうえにも手間を重ねた高度な織りのテクニックが、唐織の豪華さをもたらしているのです。
 さて、今見た例では地色にも文様にも紅色が入っていますが、唐織には、地色に紅色を用いず、文様部分にも紅色がほとんど入っていないものもあります。紅色の入ったものは「紅入(いろい)り」といって年齢の若い役柄に用い、紅色の無いものは「紅無(いろな)し」といって年老けた役柄に用いるという約束ごとが能装束にはあります。


◆「ちょうけん」の美しさにせまってみる
 小袖形の装束や、大袖形の装束のうち狩衣などは、現実生活の衣服のかたちにならって能の舞台衣裳としたものですが、なかには、独特のものもあります。「長絹」はその代表的な例です。
 長絹は、紗(しゃ)や絽(ろ)といった向こう側が透けてみえる絹織物で、裏地をつけない単(ひとえ)に仕立てられます。現在つかわれている長絹では、袖口と襟(えり)に紐が通されていますが、江戸時代のものでは失われていることが多いです。多くは、金糸で文様が繍(ぬ)い取りのように織り出されています。役柄は、女役なら人前で舞を見せる天人(てんにん)や白拍子(しらびょうし)、男役なら平家(へいけ)の公達(きんだち)に用いられます。文様のデザインは、草花、蝶々、唐草(からくさ)、鳳凰(ほうおう)などで、狩衣に見られる龍や雲、法具などの力強いものは見られません。生地の透け感は儚(はかな)げで、文様は典雅。まさに能の「幽玄美」をかたちにしたような装束です。
 №3の長絹は、濃い紺色の絽に、金糸で唐草と菊の花丸、杜若(かきつばた)の花丸を織り出しています。人前で舞を舞って日銭を稼ぎながら失った子を探し求める母、あるいは、若くして戦に命を散らした平家の公達などに用いることができるでしょう。
(杉山未菜子)

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