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No.484

企画展示室2

鳥・酉・鶏

平成29年1月5日(木)~平成29年2月12日(日)

三、鷹

 猛禽(もうきん)類の鷹(たか)は食物連鎖(しょくもつれんさ)の頂点に立つ強い鳥であり、これを飼い慣らして狩猟に用いる鷹狩り(たかがり)は、為政者(いせいしゃ)の権力や権威を示す行為として、世界各地で古くからおこなわれてきました。そのため絵画の題材としての鷹もしばしば政治的な力の象徴として描かれてきました。
 久留米藩の絵師三谷等悦(みたにとうえつ)が描いた「鷹図(たかず)」(No.6)は、波が砕け散る岩の上に悠然と羽を休める1羽の鷹を描いた水墨画です。「雪舟4代等悦筆(せっしゅうよんだいとうえつひつ)」という落款(らっかん)は雪舟の正系という絵師の自負のようであり、それは猛々しい鷹の姿にも重なります。福岡藩の絵師上田主治(うえだもりはる)(生没年不詳)の「富士(ふじ)に鷹図(たかず)」(No.7)は初夢に見ると縁起が良いとされる「一富士二鷹三茄子(いちふじにたかさんなすび)」に因む作品で、この場合の鷹は出世や栄達を意味します。
 一方、大津絵(おおつえ)の「鷹(たか)」(No.8)は、鷹狩りの鷹をあらわした親しみやすい作品です。大津絵は近江の大津(現・滋賀県大津市)で江戸初期に成立し、東海道を往き来する旅人にお土産や護符(ごふ)として売られた彩色版画です。

四、鷺

 鷺(さぎ)はサギ科の水鳥の総称で、中国の江南地方では古くから蓮池に遊ぶ白鷺(しらさぎ)が描かれてきました。白鷺が画題として好まれたのは、その純白の姿の中に蓮の花と同じく泥に染まらない高潔な精神性が見出されたからかもしれません。
 雪舟に学んだ水墨画家で、筑後の人と伝える等梅(とうばい)の「蓮池白鷺図(れんちはくろず)」(No.9)もこうした中国の花鳥画の系譜を引く作品です。横長の画面には、蓮池から今まさに飛び立とうとするかのように、羽を一杯に広げた白鷺が描かれています。
 ところで、花鳥画は室町時代から釈迦や観音などの道釈画(どうしゃくが)と組み合わせて鑑賞されることもありました。仏典の『維摩経(ゆいまぎょう)』に登場する維摩居士(ゆいまこじ)の左右に、蓮池に遊ぶ白鷺と鶺鴒(せきれい)を描いた「維摩(ゆいま)・蓮(はす)に白鷺(しらさぎ)・蓮(はす)に鶺鴒図(せきれいず)」(No.10)もそうした伝統を引く作品で、何気ない自然の中にこそ仏教の真理が息づいていることを暗示しているように見えます。

五、鴛鴦

 鴛鴦(おしどり)はカモ科の水鳥で、雄(鴛(えん))と雌(鴦(おう))の番(つが)いがいつも寄り添う生態から夫婦和合の象徴とされ(実際は毎年パートナーを変える)、仲の良い夫婦を「おしどり夫婦」と呼びます。
 江戸後期の筑前の町絵師、桑原鳳井(くわはらほうせい)(1793~1841)が描いた「鴛鴦図(えんおうず)」(No.11)は梅の花咲く春の水辺に寄り添う鴛鴦を描いたほのぼのとした作品です。鮮やかな羽をもつ雄は木の枝から雌を誘うかのように視線を送っています。婚礼儀式の場で用いられたものでしょうか。一方、福岡藩の御用絵師衣笠氏(きぬがさ)の作と伝わる「鴛鴦図(えんおうず)」(No.12)は巻子(かんす)の一部とみられる作品で、番いの鴛鴦が写実的な筆で描かれています。

14 狩野洞白筆 花鳥図

14 狩野洞白筆 花鳥図

六、小鳥

 最後に、様々な小鳥(ことり)(小禽(しょうきん))を群れとして描いた作品を紹介します。
 梅の木に群れる雀を描いた「梅花群雀図(ばいかぐんじゃくず)」(No.13)は中国・清代の宮廷画家、沈南蘋(しんなんぴん)(沈銓(しんせん)・1682~?)の落款(らっかん)をもつ作品です。南蘋は長崎に来日し、円山応挙(まるやまおうきょ)をはじめ日本の画家たちにも大きな影響を与えた人物で、写生的な花鳥画を得意としていました。
 春と冬の景色の中に色とりどりの小鳥を描いた双幅の「花鳥図(かちょうず)」(No.14)は、江戸後期に活躍した駿河台狩野家(するがだいかのうけ)の絵師、狩野洞白(かのうとうはく)(愛信(なかのぶ)・1772~1821)の作品です。画中には雀や鳩など身近な鳥に混じって尾の長い珍しい鳥が描かれているのが注目されます。
 こうした一種の群鳥図が描かれた背景には、江戸時代に広まった博物学的な興味や、珍しい鳥を飼うペットブームが関係しているのかもしれません。金地屏風に描かれた「群鳥図(ぐんちょうず)」(No.15)は、福岡藩御用絵師の衣笠家に伝来した作品で、そこに描かれた鳥たちは既に伝統的な表現を脱して図鑑から抜き出したような写実性を備えています。
(末吉武史)

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