平成29年1月24日(火)~平成29年4月9日(日)
4 膳と椀〈ぜんとわん〉
高度経済成長期以降、都市部に限らず農山漁村に至るまで、私たちの暮らしの環境は大きく変化しました。冠婚葬祭にともなう会食、あるいは地域の年中行事や祝宴も、個人の家で行わないのが当たり前になってずいぶん経ちます。
江戸時代以来、こうした宴席に出される食事は形式が決まっていて、そこで使われる食器も、漆塗りの膳椀類と決められていました。裕福な家庭などでは、大人数の会食に対応できるよう、数十人分の膳椀類を備えていました。
こうした食器はどれも、普段使いとは違う上質なものが揃えられていました。たとえまったく使わなくなって、家の奥にしまい込んでいたとしても、お婆ちゃんが大切に扱っていた漆器を捨ててしまうのはためらわれます。
こうしたものが建て替えや引っ越しを機に博物館に持ち込まれることは少なくありません。しかしこれらは形式に則った「良い品」であるがゆえに、同規格の品が重なることもしばしばです。較べることを旨とする「たくさん残っているもの」の民具学には、まだまだ考えなければならないことがありそうです。
(松村利規)