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No.186

黒田記念室

能面の世界-女面-

平成13年7月17日(火)~平成13年9月24日(月・祝)

 「能面」といえば、小面(こおもて)、あるいは、般若(はんにゃ)を思い浮かべる人も多いでしょう。清らかな乙女(おとめ)をあらわす小面や、角(つの)を生(は)やし、まなじりを吊り上げた般若のほか、能面には、様々な表情の女性をかたどったものが数多くあります。中には、現実に生きている女性ではなく、鬼女や亡霊、草木の精をあらわすものもあります。ここでは、それらを含めた女性形の面(おもて)を「女面(おんなめん)」と呼ぶことにします。この展覧会は、本館が所蔵する能面コレクション全百六十九面を紹介する「能面の世界」シリーズの第2回目であり、昨年度の「能面の世界1 -神と人と-」に続くものです。女の喜怒哀楽を多彩に織りなし、能の幽玄(ゆうげん)を体現する女面の世界を見ていきましょう。
 女面には、表情のあいまいな面と、般若のように表情を強く打ち出した面があります。前者は、仕草(しぐさ)や角度によって、喜怒哀楽を自在に表現できる、オールマイティな面です。このような女面には、少女から老女まで、年の頃の違ういくつかの種類があります。また、同じ年頃をあらわす面でも、微妙に形を違えた様々なヴァリエーションがあり、それぞれが、可憐(かれん)さ、艶(あで)やかさなど、異なる特質を強調しています。この女面の種類の多さは、能が表現する世界において女性の登場人物が重要な役割を担(にな)っていることを反映しています。
 そもそも、能は、「翁(おきな)」という演目を冒頭に1日がかりで5つの曲を、あいだに狂言(きょうげん)をはさみながら演じるものでした。この上演形式にのっとり、能の曲はそれぞれ、次のように五つに分けられています。
・初(しょ)番目物 神が、国土を祝福し、豊穣を祈る。脇能(わきのう)ともいう。
・二番目物 修羅道(しゅらどう)に落ちた武将が、苦しみをうったえる。修羅物ともいう。
・三番目物 雅(みやび)やかな女性や貴公子が、優美な舞いをみせる。鬘物(かずらもの)ともいう。
・四(よ)番目物 他に属さない、すべての曲。劇的な題材が多い。雑物(ざつもの)ともいう。
・五番目物 鬼や天狗(てんぐ)などが登場する。強く早いテンポを持つ。切能(きりのう)ともいう。
  この中で、三番目物が鬘物と呼ばれるのは、鬘(かつら)をつける役、つまり女性を主人公にする曲が多数を占めるからです。臈長(ろうた)けた美女の霊や現身(うつしみ)の女性、あるいは女姿の精霊が優雅な舞を舞う鬘物は、能の奥深さや味わいを最も端的にあらわし、五番立(ごばんだて)の演能において最も感興が高まるところと捉(とら)えられています。いわば、能の美の核心にあたると言えるのです。ゆえに、鬘物で用いられる女面がおのずと重視され、わずかな趣(おもむき)の違いを持った面が数多く創り出されたのでしょう。
  五番立の演能形式をさして、「神(しん)・男(なん)・女(にょ)・狂(きょう)・鬼(き)」と形容することがあります。四番目物をさして「狂」というのは、抜き差しならない情念によって狂乱の態となった女性が登場する「狂女物」が、劇的な題材の多い四番目物を代表すると考えられているからです。子を探す母の狂わんばかりの哀惜(あいせき)、恋慕(れんぼ)のすえ嫉妬に狂って鬼と化(か)す女の悲憤(ひふん)など、女性の登場人物をとおして鮮(あざ)やかに描き出された人間の想念の深みにこそ、人間ドラマとしての能の面白さが集約していると言えるでしょう。

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開館時間
9時30分〜17時30分
(入館は17時まで)
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休館日
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(月曜が祝休日にあたる場合は翌平日)
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