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No.255

黒田記念室

染織シリーズ2 小袖ぎれ精華

平成17年1月18日(火)~3月21日(月・祝)

◆「小袖裂(こそできれ)」という言葉


19 唐子に桜文様小袖裂

  「小袖裂」――何やら意味の捉えにくい言葉ですが、「小袖裂」とは、古いキモノ(=小袖)の断片(=裂、きれ)のことです。
  「きれ」という言葉は、「きれを買ってきて自分で縫った服」というように、英語の「クロス(cloth)」同様の布地を指す語として用いられることもあります。しかし、漢字では「切」あるいは「裂」と表記されることから分かるように、本来は、裁ち切られた断片のことを表す語です。私たちが日常的に「紙きれ」「布きれ」と言うときの「きれ」は、何か半端なもの、価値の劣ったものというニュアンスがありますが、日本美術の世界で言う「○○ぎれ」は全く正反対で、非常に高い価値が認められるモノです。例えば、「古筆切(こひつぎれ)」は、美しい文字が綴(つづ)られた料紙(りょうし)の断片のことです。また「名物裂(めいぶつぎれ)」は、外国から渡来し、茶道具の袋などに使われた美しい織物のことで、ごく小さな切れ端まで大変尊重されました。古筆切は古人の筆遣(ふでづか)い自体を味わうもので、全体の文意が判読できなくても差支(さしつか)えありません。名物裂は織り地の風合(ふうあ)い自体を愛(め)でるもので、何かを仕立(した)てるに足りるか否かは問題ではありません。つまり、日本美術の「○○ぎれ」とは、モノが本来持っていた用途というものに全くとらわれない、一つの価値観・美意識の産物であると言えるのです。
  「小袖裂」も、この価値観の伝統を受け継いだものです。大量に生産・消費される現代の衣服とは異なり、江戸時代の小袖は、あまたの人に着古され、着用に適さなくなれば、縫いを解(ほど)いて別の物に仕立て換えられるのが、本来の運命でした。しかし、「小袖裂」とは、解かれて再利用を待つリサイクル原料ではありません。江戸時代の衣装美を伝えるために断片のまま据(す)え置かれ、二度と鋏(はさみ)を入れ針を通されることのない裂地(きれじ)のことを指す言葉なのです。なお、「名物ぎれ」、「小袖ぎれ」には「切」の漢字を用いることもありますが、「裂」の字は「衣」が含まれていることから分かるように「絹地の裁ち余り」という意味がもともと字義に含まれているので、今日の用語としては「裂」の字をあてるのが一般的です。


4 松文様小袖裂 13 柳桜草子短冊文様小袖裂
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