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No.261

黒田記念室

能面の世界5-能の中の異国-

平成17年5月24日(火)~7月18日(月・祝)


23 菊流水文様唐織(部分)

 能には天竺(てんじく)(インド)や唐土(もろこし)(中国)を舞台にしたものがしばしば見られます。登場するのは、神話に登場する神仙や仏教の護法神、『史記(しき)』など歴史ものでおなじみの武将や美姫(びき)たちです。もっとも、能舞台で繰り広げられるドラマの印象は、日本が舞台の能とそれほど変わるわけではありません。古典的な能の理論書でも「唐土天竺の事も、和国の能なれば、和してつくるべし」(金春禅鳳(こんぱるぜんおう)『反古裏(ほごうら)の書(しょ)』)と説いています。それは、中国の古典文芸が、元来、自国の古典と同じように読み解かれ、消化されたうえで、能というパフォーマンスに取り入れられているからです。とはいえ、現代のように海外の情報が豊富に無かった時代には、異国題材の能の、耳から聞こえる謡(うたい)の詞章、眼前で繰り広げられる役者の動きに、遙かに遠い異境を想像したのかもしれません。福岡市博物館所蔵面を紹介するシリーズ「能面の世界」5回目は、『能の中の異国』として異国題材の能に登場する能面を取り上げます。


◆齢(よわい)を延(の)ぶるめでたさよ…不老長寿への願い

 中国には遙か西方に崑崙山(こんろんさん)という山があり、西王母(せいおうぼ)という神仙の女帝が、多くの仙女(せんにょ)を従えて住んでいました。そこには、人間の時間にして3,000年に一度、花咲かせ実を結ぶ桃があり、一つを口にすれば3,000年の寿命を得ると言われていました。
 中国では、古来より不老長寿への関心が深く、口にすれば不老不死となる「仙薬」の存在が信じられてきました。西王母の園に生える桃の実も、その一つです。この神秘の桃の実を題材にした能が『西王母』、『東方朔(とうぼうさく)』です。いずれも、王者(周の穆王(ぼくおう)・在位紀元前1001~947年あるいは漢の武帝・在位紀元前141~87年)の前に神仙が姿を現し、桃を授けて、その王者の天下が永続することを祝福する、おめでたい能です。
 また、秋に咲く菊花も不老長寿の薬草と考えられていました。神仙についての記述がある書物『抱朴子(ほうぼくし)』(晋・葛洪(かつこう)撰、4世紀初頭に成立)には、河南省のれき県(れきけん)の山から流れ出す谷川のことが出ています。そのほとりに住む人は、皆、長命でしたが、それは、谷川の上流に咲き乱れる菊が川に落ち、川の水が仙薬となったからだというのです。この仙薬としての菊を題材にした能が、『菊慈童(きくじどう)』(あるいは『枕慈童(まくらじどう)』)です。霊水の源を求めて、魏の文帝(在位220~226年)の使いがれき県の深山に分け入ると、菊の花咲き乱れる仙境があり、少年の姿のまま何百年も生きている美しい仙人がいます。彼が長命なのは、周の穆王から与えられた枕に書き付けられた法華経(ほけきょう)の妙文(みょうもん)を、菊の葉に書き写し、その葉にたまる露を口にしたからと言います。ここでは、中国古来の菊と長寿のイメージに仏教信仰が重ねられています。


3 慈童
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