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No.285

考古・民俗展示室

ものづくりの考古学

平成18年8月29日(火)~11月5日(日)

2鉄器(てっき)作りへの挑戦―鉄を作らない鉄器作り―


図2、鋳造鉄斧(比恵遺跡群)

夢の道具”くろがね”への憧(あこが)れ 日本に最初に鉄器が入ってきたのは弥生時代の初め頃と言われています。さらに弥生時代の中期以降にはまとまった量の鉄器が国内に入ってきました。当時日本にはすでに青銅器(せいどうき)が流通して「祭器(さいき)」の中心だったため、鉄器は「実用品」として用いられたと考えられています。実際に、青銅器が次第に祭器の形態に変化する一方で、鉄器は祭祀(さいし)的な形態の変化はほとんどしません。また青銅器と同様に鉄器も貴重品で、弥生時代の中期には鉄製武器を持つこともステータスシンボルだったと考えられます。しかしその一方で住居跡(あと)からも斧(おの)や鎌(かま)などの日常品が出土することがあります。このようにそれまでの石器や木器と比べて作業効率が高く武器としての威力(いりょく)も大きな鉄器は、当時の人たちにとって「魅力的な道具」でした。

メイドインジャパンのための材料
『魏書(ぎしょ)』東夷伝(とういでん)に「(弁辰(べんしん))國(くに)鉄を出す。韓(かん)・(わい)・倭(わ)皆(みな)従って之(これ)を取る。」という記述があります。北部九州を含(ふく)む「倭」は朝鮮半島(ちょうせんはんとう)南部の鉄を輸入していた可能性が高いといえます。では、どのような「かたち」の鉄を輸入していたのでしょうか。弥生時代の日本人は鉄鉱石や砂鉄から鉄を作る技術を持たず、朝鮮半島や中国で作られた鉄を製品や半製品として輸入していたとみられます。板状鉄斧や(てってい)といった板形の鉄製品は鉄素材として考えられています。また板状鉄製品とよばれる小型の鉄板もこうした鉄素材だったのではという意見が出されています。



図3、切断鉄片・製品断片(博多遺跡群)

壊(こわ)れた鉄器をリサイクルする 鉄器の鋭(するど)さは同時代の磨製(ませい)石器を遙(はる)かに凌駕(りょうが)し、その機能性は多くの需要を生み出していきました。一方、鉄素材が海外から間接的にしか手に入らない状況下で、鉄器の需要に応えるために当時の人々は様々な工夫を行っています。北部九州では弥生時代の中期に輸入品の鋳造鉄斧(ちゅうぞうてっぷ)の小破片をリサイクルした再生品が出現しています。これは使用中に壊れたりした鉄製品を適当な大きさに切断し、目的の鉄器の形になるまで砥石(といし)で削(けず)り、磨(みが)いたりしたものです。舶載(はくさい)の鋳造鉄斧は身が厚く大型で、その破片は多少小さくても小刀みたいに使えます。短くなった鉛筆を苦労して使ったり、破れた服地を裁(た)ち切って再利用したりするようなことがこの頃の鉄製品についても当てはまります。こうして、福岡地域では弥生時代中期の終わりまでに斧などの実用利器の大半が鉄器化するのです。

日本で最初の「鍛冶屋(かじや)」 弥生時代後期になると、高温で熱した鉄を鍛(きた)えて鉄製品を作る、いわゆる鍛錬鍛冶(たんれんかじ)作業に関係する遺構や遺物が博多湾(はかたわん)沿岸の各遺跡でみられるようになります。しかしここでも前の時代から引き続く難問、すなわち「鉄自体の生産は日本ではまだ不可能である」という事情が存在しました。したがって原料となる鉄はやはり輸入された板状鉄器であり、壊れた輸入鉄器でした。鉄を高温に加熱する作業は、既に存在した青銅器の鋳造技術を参考としたとみられ、高温のために先端が溶けた羽口(はぐち)(鍛冶炉(かじろ)に空気を送る管)が出土しています。しかし鍛冶作業に使用する道具は鑿(のみ)や鏨(たがね)の他には鉄製の工具を持つことができず、当時中国や朝鮮半島で鉄を鍛える際に使用していた鉄槌(てっつい)(金槌(かなづち))や鉄砧(かなとこ)(金床)、鉄鉗(てっかん)(金(かな)はさみ)は、日本では敲石(たたきいし)・台石(だいいし)といった石器で代用するしかありませんでした。しかし鍛造鉄斧(たんぞうてっぷ)を初めとする鉄製品はさらに増加の一途(いっと)をたどります。鉄器が農工具の主体になっていった時代の流れに対し、それを滞(とどこお)らせることなく鉄器を供給し続けた人たちの努力と工夫がそこにあったのです。
  日本で砂鉄から鉄が製錬(せいれん)され、日本製の鉄素材が作られるようになったのは、6世紀のことです。しかしそれ以前から日本人は独自の工夫と努力で鉄を最大限利用することができたのです。
(大塚紀宜)

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