平成5年3月23日(火)~6月27日(日)
熨斗 |
はじめに
人に物を贈ったり、またその返礼に物を贈られることを「贈答(ぞうとう)」といい、今日でも、中元(ちゅうげん)や歳暮(せいぼ)など、盛んに行われています。贈答は、定期的なものと、不定期に行われるものとに大きく分けることができます。年末・正月・盆・彼岸(ひがん)・三月節供(せっく)・五月節供などに行われるものが前者で、後者には、婚礼・出産・葬式などの人生儀礼や病気・火事・水害・家普請(いえぶしん)・旅行などの、近親者の合力の気持ちを表す贈与と、その返礼とがあります。
もともと贈答は、食物を贈りあうことからはじまったとされています。時代の移り変わりとともに、贈答の中心は食物から品物へと変わってきていますが、贈答品に付ける熨斗(のし)などには、日本の民俗文化の特色が保たれています。現代では、クリスマスやバレンタインデーなど洋風の習俗も行われるようにもなり、伝統的な日本の贈答の意味が忘れられようとしています。ここでは、贈答の本来の姿を、もう一度振り返ってみたいと思います。
オクンチの盛物(能古島) |
1、共食から贈答ヘ
日本人は特定の食物を皆で一緒に食べる「共食(きょうしょく)」によって、つきあいを確認し、共向性を維持してきた。日常の酒宴や花見なども同じ意味を持っている。時代とともに、交際範囲も広がり、行動を共にできない人々も含まれるようになった。そこで、宴席に欠席した人に対して、その席の酒食類を贈り届けることが行われ始めたとされる。これが贈答のはじまりである。
八朔の笹飾り(博多風俗画) |
2、節供(せっく)の贈答
節供の贈答の特色は、それぞれの節供で決った食物を贈りあうことにある。正月には餅・米・鰤(ぶり)、盆には素麺(そうめん)・麦粉(むぎこ)・塩・さば、彼岸(ひがん)には牡丹餅(ぼたもち)、三月節供には草餅、五月節供には粽(ちまき)などである。こうした食品は、本来、神仏への供物であったものが、それぞれの節供の重要な食物となったものである。初めての節供では、近親者から子供へ、食物と併せて、正月には破魔弓(はまゆみ)、三月にはオキアゲ、五月には武者飾りなどが贈られた。この習俗は、現在でも盛んである。