平成6年6月28日(火)~9月11日(日)
男性用便所から出土したクソベラ(籌木) |
便所の出土遺物
便槽内の出土遺物は、上層と下層に分けられ、下層からは排便後にお尻を拭いたクソベラ(籌木)や大便の中に混じっていた瓜の種などの自然遺物、あるいは排便時に落とした小刀などが出土しました。上層は、便所を廃棄した時に穴を埋めた土で、この中には瓦や陶磁器などが出土しました。
木簡(右は赤外線写真) | クソベラ(籌木) |
クソベラ(籌木)を入れた新羅焼の樽 |
便所から見つかるもの-便所は古代の宝箱
便所の中から出土するクソベラ(籌木)の中には文字を書いたものがあり、これは荷札(木簡(もっかん))をクソベラとして再利用したものです。小刀など排便中に落としたものもあります。さらに土壌を分析することによって、寄生虫の卵、魚骨や植物の種などの食べかす、樹木の花粉や小さな虫など微細なものも発見でき、当時の食べ物や自然環境などが復元できます。
藤原京の便所の土(大便)を分析して見つかった微細遺物 | |
食糞性の虫 | :マル工ンマコガネなどのコガネムシ類 |
糞便に棲む虫 | :チョウバ工、ハネカクシなど |
食用植物の種子 | :ウリ属、シソ属、ナス属、ブドウ属、サンショウ属など |
植物の花粉 | :多くの種類の植物があるが、特にべ二バナは寄生虫の駆除剤として服用されたと考えられる。 |
寄生虫の卵 | :回虫、鞭虫、肝吸虫、横川吸虫、肺吸虫など |
その後の便所~肥料としての糞尿
その後の日本の便所は、汲み取り式便所がほとんどでした。その理由は、糞尿を野菜作りの肥料(下肥(しもごえ))として利用したからです。肥料としての利用が増大するのは室町時代前後からで、この頃から一般庶民にも便所が普及していきます。江戸時代には都市部の屎尿(しにょう)が商品として売られました。都市と農村との消費・生産をつなぐ重要な役割を果たしました。
インド・ビハール州のレストランのトイレ |
トイレットペーパーがなく、水でお尻を洗う。 また、日本とは逆に扉にむかってすわる。 |
現代の便所、世界の便所-便所も文化だ!
現在、各地で便所の水洗化が進み、汲み取り式便所は過去のものになろうとしています。これは化学肥料の普及とまったく無関係ではないでしょう。一方、水洗化とともに温水洗浄器付便器を取入れる家庭も多くなりました。世界中を見渡せば、紙以外のものでお尻を拭く地域も多く、水でお尻を洗うのもインドやイスラムなど昔からあります。便所ひとつとっても世界には様々な文化があることがわかります。
■協力者(敬称略)
明光寺・金原正明・松井章
奈良国立文化財研究所
福岡市教育委員会文化財整備課
福岡市教育委員会埋蔵文化財センター