平成8年3月26日(火)~9月29日(日)
今では神社に安置され一般に狛犬(=こまいぬ)と呼び慣らわされている1対の獅子(しし)・狛犬(こまいぬ)は、もともとはインドで仏の神威(しんい)を象徴的に示すために1対の獅子(ライオン)形を仏像の台座に刻んだのが起源とされています。それが仏教とともに中国・朝鮮半島そして日本に伝わっていくうちに、しだいに墓域(ぼいき)などを護(まも)る想像上の守護獣(しゅごじゅう)としての性格が加わり、角(つの)のある狛犬、角のない獅子の組み合わせになったといわれています。日本でも飛鳥・奈良時代など初期には獅子と狛犬の違いは必ずしも明確ではありませんが、しだいに多くの獅子・狛犬が作られ寺院や神社の境内(けいだい)に安置(あんち)されてきました。それはここ九州でも例外ではなく、福岡にも優れた獅子・狛犬が残されています。特に和様(わよう)(日本風)の狛犬にまじって宋風獅子(そうふうしし)と呼ばれる中国風の獅子がこの地方に集中して残されているのは我が国の獅子・狛犬の展開を考えるうえでも興味深く、また福岡と大陸との交流の歴史を示す貴重な証拠といえるでしょう。これまで、彫刻として顧(かえり)みる機会の少なかった獅子・狛犬ですが、本展示ではその多彩な表現と展開を御紹介します。
1 宗像大社 木造狛犬 |
1 木造狛犬(もくぞうこまいぬ)(重要文化財)
1対/宗像郡玄海町 宗像大社(むなかたたいしゃ)/像高 (阿形)79.0センチ (吽形)73.0センチ
九州に多いクス材の一木で造られた1対の獅子・狛犬で、木造のものとしてはかなり大型の部類に属します。太く造られた頭や脚など、体の各部を誇張してみせる表現は室町時代の彫刻にしばしばみられる特徴です。力強く豪快な中にも表情などにユーモラスな雰囲気があって親しみのもてる像です。
2 飯盛神社 石造獅子 |
2 石造獅子(せきぞうしし)(福岡県指定文化財)
1対/福岡市西区 飯盛神社(いいもりじんじゃ)/像高 (阿形)47.7センチ (吽形)46.7センチ
その形が中国の宋(そう)の時代に日本にもたらされたことから一般に宋風獅子(そうふうしし)と呼ばれています。1対どちらにも角(つの)がなく、大きく身をよじって子獅子と毬(まり)を抱(だ)き抱える姿は日本の狛犬のスタイルとは明らかに違います。全国的にも数が少なく、建仁元年(1201)の銘文のある玄海町・宗像大社の石造獅子をはじめとして福岡県を中心に数件が知られているだけです。本像はその中でも丁寧な作ゆきをみせ、鎌倉から南北朝時代にかけての制作と思われます。
3 恵蘇八幡宮 木造獅子 |
3 木造獅子(もくぞうしし)
1対/朝倉町 恵蘇八幡宮(えそはちまんぐう)/像高 (阿形)74.5センチ (吽形)74.0センチ
1対ともに角(つの)がなく、眼をむいた独特の表情や巻いたたて髪などは明らかに中国風の影響を受けています。福岡県内には飯盛神社(いいもりじんじゃ)の石造獅子など、宋風の獅子がいくつか残されており、本像もこれらの影響を受けて作られた可能性があります。上体を立てて胸を張った姿は獅子としては古い時代の形式に属しますが、体の肉付けに鎌倉時代の獅子のような写実性がないことから制作は室町時代まで下ると思われます。
4 志賀海神社 木造獅子 |
4 木造獅子(もくぞうしし)
1対/福岡市東区 志賀海神社(しかうみじんじゃ)/像高 (阿形)66.3センチ (吽形)69.2センチ
阿形(あぎょう)(口を開けたほう)・吽形(うんぎょう)(口を閉じた方)ともに全身をクスの一木から彫り出しています。傷みが激しいのが惜しまれますが、ひきしまった胴や前脚(まえあし)など、均整のとれた体躯の表現に鎌倉時代特有の写実性をみることができます。材質や構造からこの地方で作られたと考えられますが、畿内(きない)(京都)の様式に忠実な洗練された姿の獅子です。