平成10年8月4日(火)~11月1日(日)
初老賀・還暦賀の記念写真 |
はじめに
人はだれでも、この世に生まれてから死んでゆくまでの間に、その人なりの時間を持っています。なかには100年を越えて生きる人もあれば、一瞬で生涯を終える人もありますが、私たちの社会は、それぞれの人生の中に、生きてきた時の経過を確認するさまざまな儀礼を埋め込んでいます。
この展示のテーマである年祝いは、ふつう、長寿を祝う儀礼のことをさす言葉です。しかし、人が誕生し、一定期間が経過したときにおこなうべきと考えられてきたさまざまな儀礼を、ここでは広い意味で年祝いと捉えます。つまり33歳や42歳の厄年(やくどし)も、子供たちの七五三も、年齢を指標として執りおこなわれるという意味で、同列に扱っています。
そもそも、祝うという考え方は、祝ってくれる人が周囲にいてはじめて成り立つものです。その意味で、年祝いはイエやムラの年齢秩序と密接な関連があると考えることができるでしょう。
年齢という考え方そのものを見つめ直すことによって、わたしたちは生活の深いところまで浸透した時の観念や人のつながりといった、社会のひとつの側面を再確認することができるのではないでしょうか。
お大師さまの日に接待する中老 |
1、年祝いとは何か
人生に埋め込まれたさまざまな儀礼は、基本的に人の成熟の段階に従って配置されています。そこで重要な基準となるのが、年という単位です。
福岡市東区志賀島を例にとると、年を単位としておこなわれる儀礼には、3歳のお膳座(ぜんすわ)りや5歳・7歳の宮参りといった幼年期の諸儀礼と、男性19歳の元服(げんぷく)祝いや女性20歳の中老入り、41歳の初老賀(しょろうが)や61歳の還暦賀(かんれきが)、あるいは88歳の米寿(べいじゅ)祝いといった厄年・年祝いがあります。これらはすべて、生まれた年から数えはじめて、何年を経たか計算して儀礼の時期を定めています。
しかし、生まれてから1年に満たない場合は、生まれ日を基準に日を数えます。これには11日目のジューイチンチマワリ、100日目の宮参り、1年目のタイジョーニチ(誕生日)といった乳児期の諸儀礼がありますが、これは初誕生以前の期間に限られます。またこの期間には、年中行事との関係で初正月や男女の初節供も執りおこなわれます。
このように、人生の諸儀礼は、年を単位として数えるもの、日を単位として数えるもの、そしてはじめて迎える年中行事にわけられ、年を単位にするものを広い意味で年祝いと考えることができるでしょう。
年齢早見表 |
2、年をとるということ
年祝いは、すべて数え年で年齢を計算します。現在では、数え年を用いることがほとんどなくなったために、右のような年齢早見表が活躍していますが、年輩の人の中には、数え年の方がなじみやすいという方も少なくないようです。
数え年は、少し難しく言えば順序数で、0はありませんから、生まれた年のうちが1歳、初正月を迎えると2歳ということになります。ですから12月生まれの赤ちゃんは、年が明ければ生後1ヶ月たたずにもう2歳です。初誕生の後に迎える最初の年祝いが3歳であるというのはこのような理由があります。
数え年という考え方の背景には、人は年の改まりに際してひとつ年をとるという年齢観があります。大晦日(おおみそか)に家族そろってごちそうを食べる年取りの行事は、家族がいっしょに年をとることを幸福とする意識に支えられてきたものでした。