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No.163

歴史展示室

日本の色と形2 黒の美学

平成12年4月11日(火)~6月4日(日)

1-(3) 黒楽茶碗 銘「泥亀」
1-(3) 黒楽茶碗 銘「泥亀」

 「黒」というと何を連想されますか。喪服、でしょうか。それとも現代的に「ブラックホール」でしょうか。
 中国の陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)では、方角の「北」、季節の「冬」そして「死」や「水」といった世界を構成する基本的概念と結びついているのが「黒」という色彩です(ちなみに「青」は「東」「春」などと結びついており、青春時代というのはそこからきています)。日本では、古代からこの陰陽五行説を基本的な世界観として、また呪術的なまつりごとの原理として取り入れてきました。ですから「北枕」やお墓に「水」を掛けることや黒い喪服など「黒」と「死」にまつわるの風習も、この陰陽五行説がもとになっているのです。
 しかしながら、「黒」を「死」にまつわる不吉な色だと決めつけるのも間違いです。現代ではおしゃれな色として日常的に使われていますし、古い美術作品には黒を用いることで優れた色彩感覚を印象づける作品が数多くあります。
 この展覧会は、様々な古美術作品に「黒」の魅力を探しだし、同時に色という観点から美術を楽しむことを目的としています。
 甲冑(かっちゅう)や歌舞伎衣裳、浮世絵、漆器、茶道具など、普通の古美術展ではちょっと考えられない取り合わせの作品が同じ展示室に並ぶのも、形式を選ばない「黒」というテーマならではでしょう。そして「黒」の使い方にこそ、私たち日本人独特の色彩感覚があらわれているのです。



1-(1)(5)(6) 茶道具(台子飾り)
1-(1)(5)(6) 茶道具(台子飾り)

茶の湯の黒

 最初のコーナーには茶道具が並んでいます。茶入や水指(みずさし)、茶碗などの主要な道具はもとより、台子や会席膳の椀などといった脇役まで、茶の湯では黒い道具がよく使われます。黒は強烈な色でありながら、時と場所、使われ方によっては渋い色彩にもなります。しかしこうして並べてみると、艶やかな光を放つ無地の漆の黒は、決して脇役ではないことが分かるでしょう。色彩が抑えられた茶室という空間にあって、こうした黒は空気を引き締める役割も担っているのではないでしょうか。
 また茶の湯の飾りの主役である床の間の掛け軸として、禅僧の墨蹟や水墨画がよく飾られます。どちらも墨という東洋独特の黒い色彩の美しさを遺憾なく発揮したものです。特に薄い墨の色は、決して濁った灰色ではありません。それは、透明感のある黒であり、漆のような真っ黒(漆黒)だけが黒ではないことを教えてくれます。今回は「白衣観音図(びゃくいかんのんず)」や「蓮池白鷺図(れんちしらさぎず)」といった題名に「白」のついた室町時代の絵画作品を選びました。黒で白を表現するというのも水墨画ならではでしょう。墨に五彩ありといいますが、水墨画は黒という色彩の豊かな表現力と深い味わいを端的に示してくれるのです。

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