平成12年4月11日(火)~6月4日(日)
4 小袖(助六衣裳) |
黒の力
黒は決して弱い色ではありません。色彩の中では最も威圧感のあるものといえます。黒をまとうことは、それだけで強い自己主張となります。このコーナーでは、歌舞伎衣裳や小袖、甲冑など黒が意識された装いをテーマにしています。
歌舞伎では、黒は力強さとともに悪を象徴します。また悪ではなくても、社会秩序や権力に対するアンチテーゼを暗示してもいます。例えば石川五右衛門の黒い装束や、恋人の揚巻に横恋慕する意休に喧嘩をしかけ、名刀友切丸を奪い返す江戸庶民ヒーロー助六の黒い衣裳は、まさに歌舞伎における黒の象徴性を物語るもの。こうした衣裳がちゃらちゃらした色では、やんやの喝采を浴びる見得も似合わないでしょう。今回出品している助六衣裳は近代のものですが、金襴の帯や真っ赤な下着、フンドシなども揃っています。
一方、鉄の黒、漆の黒そして威(おど)し糸の黒が合わさった甲冑もまたこの上なく力強さを感じさせます。中世の大鎧(おおよろい)には華麗な色彩のものが多いのですが、戦国時代以降の実践的な胴丸具足(どうまるぐそく)には、紺糸威や茶糸威とともに黒糸威の鎧があります。これに黒い鉢の兜を被れば全身が黒に覆われます。さらに黒漆の拵(こしらえ)の刀を差し、馬に例えば筑前黒田家の中白旗のような黒と白の旗印を立てれば、何者も怖れない黒い武者の装いになります。
今回は、黒田家初代藩主長政(ながまさ)の甲冑や、2代忠之(ただゆき)の鯰尾形兜(なまずおなりかぶと)などを展示しています。黒糸威の具足に黒い陣羽織を羽織り、銀色の一の谷兜を被った「黒田長政像」のいでたちを見れば、戦国武将の黒によるダンディズムが理解されるでしょう。
こうした黒い装いは、非日常に身を置くことに通じています。死を賭した戦場や虚構の舞台でこそ、黒の力は遺憾なく発揮されるのであり、そうした意味では、現代の黒っぽいスーツなど軟弱きわまりいないものかもしれません。
9 黒田長政像(部分) |
10 鯰尾形兜 |