アーカイブズ

No.208

考古・民俗展示室

博多を食う-食材と調理具の考古学-

平成14年7月30日(火)~10月27日(日)

はじめに
皆さんの好きな食べ物は何でしょう。ご飯とみそ汁、ハンバーガー、お刺身(さしみ)、カレーライス?現在の私たちは、世界中から来たさまざまな食材(しょくざい)に囲まれていますね。


漆器皿

 さて、昔の人たちはどんなものを食べていたのでしょう。確か「日本人は仏教の影響で、明治時代になるまで肉は食べなかった」と習ったような気が・・・。でも遺跡を発掘すると、土器や陶磁器と一緒に魚や動物の骨が出てくることがあります。その骨に解体した時の刃物の痕(あと)がついていたり、煮たり焼いたりした痕があったりして、食材だとわかる例もあります。博多(はかた)遺跡群から出土した骨を調べていくと、魚や鳥などおなじみの食材のほか、牛や豚、またイルカや犬、亀など、びっくりするような動物まで食べられていたことがわかってきました。博多には、国際都市にふさわしい多彩(たさい)な食文化が花開いていたのでしょう。
  今回は中世博多の食生活を、遺跡出土の骨から探る食材のコーナー「博多の食」と、それを調理した道具、盛りつけられた食膳(しょくぜん)具など、食文化を彩(いろど)る道具のコーナー「食事の風景」の二部構成で紹介します。


1.博多の食
イルカ好きの博多人


イルカの埋葬?

  今年は下関でIWC(国際捕鯨(ほげい)委員会)の総会が行われましたが、鯨(くじら)やイルカを食べることに対する現在の国際世論には、まだまだ厳しいものがあります。しかし、かつては鯨やイルカは貴重なタンパク源でした。
 さて、博多遺跡群でもっともよく目につくのは、イルカの骨です。骨が出土する遺構からは、必ずと言っていいほどイルカの骨も出てきます。玄界灘(げんかいなだ)はイルカ、鯨の宝庫でした。博多の人がイルカが好物だったということもあるでしょうが、一匹とれると大勢で食べることができるところが喜ばれたのかもしれません。イルカの中には丁寧に埋葬されたものもあったようです。


中世の肉食


埋められていたウシの骨

 中世博多人が好んだのはイルカだけではありません。ほかにも様々な獣肉が食べられています。出土する骨からみて、特に好まれたと思われるのは、ウシ、イノシシ、シカなど、現在でもおなじみの肉です。ウシは何頭もまとめて解体された例があり、肉屋があったか、宴会で供(きょう)されたものとみられています。シカは食用のほか、角が簪(かんざし)や刀の付属品(刀装具)などの骨角器の材料としても利用されました。これらの骨に劣らぬほど多く出土するものにイヌ、ネコがいます。中には大事に飼われ、死んだ後もお墓に埋められた幸福なイヌもいましたが、今回展示したもののように、その多くは火を受けていたり、解体した痕があったりするもので、やはり盛んに食べられていたことがうかがわれます。


豊富な海の幸


アワビが捨てられた穴

 博多湾や玄界灘を擁(よう)する博多の地は、今も昔も海の幸に恵まれていました。鯛(マダイ)は今と同じように好まれたようで、骨がたくさん出土しています。また、貝はもっとも身近な海の幸でしたが、今ではちょっとお目にかかれないような大きな鮑(あわび)も取れたようです。このほか、鱗(うろこ)ばかりを捨てていた穴なども見つかっており、すぐ近くで、調理をしていたものと思われます。


2.食事の風景
煮炊きの道具

 食物を煮炊(にた)きするためには、縄文時代から土器が用いられてきました。古代の煮炊き用の土器は縦長の甕(かめ)形をしています。奈良時代頃から口が開き胴の短い鍋(なべ)形になります。しかし、展示資料のような中世の土鍋は、このころ普及し始めた鉄鍋の形を模倣したものです。中世の博多でも鉄鍋や銅鍋が用いられていたことは出土遺物からわかっていますが、ほとんどは土鍋で煮炊きしていました。
 釜(かま)は金属製、土製がありますが、博多で出土するものの多くは土製の小型品で、文様を持っていたりします。これらは主に、茶の席で用いられたものと考えられています。


食卓の風景

 食膳は、平安時代にはみんなで1つのテーブルを囲むこともあったようですが、中世になると、それぞれ1人ずつのお膳になります。この習慣は戦前まで残っていました。中世の博多では折敷(おしき)と呼ばれる背の低い四角のお膳が多く使われました。食器には土器、漆器(しっき)、木器が用いられました。博多では商品としての陶磁器が大量に出土していますが、富裕な博多商人の中には、日常の食器に使っていた者がいたかもしれません。食べる道具はいまと同様箸(はし)が主に使われました。古代には匙(さじ)も使われていましたが、中世には廃(すた)れています。博多でもわずかに匙が出土しますが、非常に小形で、薬の調合(ちょうごう)などに使われていたようです。


宴の後


多量に捨てられた土師器皿

 博多では時々、土器の皿(土師器坏(はじきつき)・皿(さら))が、足の踏み場もないほど多量に出土することがあります。これは大がかりな宴会が行われたことを示しています。鎮西探題(ちんぜいたんだい)など、公的な機関の宴会では、食器として新品の土師皿が用いられ、1回ごとに使い捨てされていました。宴会はただの飲み食いではなく、清浄な器を用いた一種の宗教行事でもあったのです。

(宮井善朗)

  • facebook
  • twitter
  • instagram
  • youtube

最新情報を配信中

pressrelease

休館日

開館時間
9時30分〜17時30分
(入館は17時まで)
※2024年7月26日~8月25日の金・土・日・祝日と8月12日~15日は20時まで開館(入館は19時30分まで)
休館日
毎週月曜日
(月曜が祝休日にあたる場合は翌平日)
※2024年8月12日~15日は開館し、8月16日に休館
※年末年始の休館日は12月28日から1月4日まで

Facata(博物館だより)

  • 福岡市博物館 市史編さん室
  • はかた伝統工芸館
  • ふくおか応援寄附
  • 福岡市の文化財

福岡市博物館

〒814-0001
福岡市早良区百道浜3丁目1-1
TEL:092-845-5011
FAX:092-845-5019