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No.250

美術・工芸展示室

南蔵院寄贈 チベット仏教コレクション5-供物(くもつ)と供養具(くようぐ)

平成16年9月28日(火)~平成17年3月27日(日)


チューコル
(供養マニ車)

三、チベットの供養具(くようぐ)

  チベット仏教の一般的な供養具としては「プーション(香炉(こうろ))」「チューコン(燭台(しょくだい))」、「プムパ(浄瓶(じょうへい))」などをあげることができます。そのほか、人が経文を唱える代わりに、蝋燭の上昇気流で経文が書かれた風車を回転させる「チューコル(供養マニ車)」といったユニークな供養具もあります。寺院の入り口に置かれて信者が手で回す「マニコルロ(マニ車)」や、経文が書かれた旗「タルチョ(経文旗)」、石に仏の真言(しんごん)を刻んだ「マニ石」もこれと同じ考えにもとづいた供養具(供物)といえるでしょう。
  ところで、チベット仏教はインド密教(みっきょう)の影響を直接受けたため、強い密教性を帯びています。密教は即身成仏(そくしんじょうぶつ)という言葉に象徴されるように、仏と人との関係を極限まで追求した仏教の一派です。それだけに、仏と人の仲立ちをする供養具にも独特のものがみられます。
  本尊に洗足水(せんぞくすい)・華(げ)・香(こう)・灯明(とうみょう)・香水(こうずい)・献食(こんじき)・音楽(おんがく)という七種の供物を献じる「ティン(七器(しちき))」もそのひとつです。ティンとよく似た供養具は、日本の真言宗や天台宗にも伝わっており、「六器(ろっき)」(数が一つ少ない)と呼ばれています。いずれも実際の供物の代わりに水や植物の葉が用いられ、この供養具が象徴的な性格を帯びていることをうかがわせます。しかし、洗足水などの供物の種類をみれば、明らかに外から来た仏を迎えてもてなしをするという、供養本来の意味を読みとることができるでしょう。



ティン(七器)


四、供養(くよう)と法要(ほうよう)


トゥーバ(髑髏杯

  供物と供養具だけでは供養は成立しません。そこにはこれらが実際に用いられ、仏と人のコミュニケーションがおこなわれる場が必要になってきます。
  「チョカ・マンダラ(法要用マンダラ)」は、まさにその場を出現させ、仏に働きかけるための装置といってよいでしょう。中央には招きたい仏のマンダラ、その周りには穀物や水・トルマといった供物が置かれます。そして法要が始まると僧侶が様々な意味をもつ印(いん)(手の形)を組み、仏を讃(たた)える真言(しんごん)を唱えて仏を招き寄せ、供物が捧げられます。
  このような供養のかたちは、火に供物を投げ入れて祈祷をおこなう護摩(ごま)にもみることができます。護摩炉に供物を投げ入れる際に用いる「ガンサル・ガンルク(護摩杓(ごましゃく))」や供物である水や穀物を入れる「トゥーバ(髑髏盃(どくろはい))」、「ネーセ(穀物器)」などは、いずれも護摩用の供養具です。その多彩さは、仏と人の関係が成り立つうえで、供養が絶対に不可欠であることを物語っています。
(末吉武史)

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