平成17年3月29日(火)~平成17年9月25日(日)
トゥンカル (法螺) |
仏教寺院で用いられる音の出る道具、つまり楽器のことを梵音具(ぼんおんぐ)と呼びます。これらは、多数の僧侶が規律ある集団生活をするために寝食や法要の開始などの合図として鳴らされるほか、法要の際には本尊の前で合奏され、神仏を供養(くよう)するためにも用いられます。
梵音具は、仏教とともにアジア各地に伝播(でんぱ)し、それぞれの風土と密接な関係をもちながら発展してきました。例えば、私たちに身近な梵鐘(ぼんしょう)(釣り鐘)も、古くは中国にルーツをたどることができる梵音具のひとつですが、そのかたちや音色は、日本人の感性に合うように長い年月をかけて改良されてきました。このように梵音具は、元来同じ用途をもっていても国や地域が異なれば、それなりに違った表情をみせているのです。
本展示では南蔵院(なんぞういん)寄贈資料の中からチベットの仏教寺院で使われる梵音具を紹介します。平均標高4,000メートル以上といわれる広大なヒマラヤの山々にこだまするドゥンチェン(大笛(おおぶえ))や、人間の頭蓋骨で作られたチャンテゥ(振鼓(ふりつづみ))など、チベットには独特の音の世界があります。このような梵音具を通じて日本の文化との違いと、仏教における音のもつ役割を考えてみたいと思います。
ドゥンチェン (大笛) |
チャンテゥ (振鼓) |
一、チベットの仏教音楽
チベット仏教寺院では、日本の場合とは異なり、その宗教活動の様々な場面で音楽が登場します。もちろん、音楽といっても私たちが日頃親しんでいる西洋音楽の流れをくむものではなく、そこには、はっきりとしたメロディや楽譜も存在しないといわれます。
しかし、チベット仏教では清らかな音によって、神仏を喜ばすこと(供養)ができると考えられているため、祈祷などの際には音楽は必要不可欠なものとなっています。僧侶がマンダラや本尊を前に声明(しょうみょう)(声楽)を唱え、あるいは読経(どきょう)しながら、様々な楽器を用いるのはそのためです。つまり、音楽には「音による供養」という意味があり、梵音具は神仏と人の間を取り持つ法具のひとつとみなすこともできるのです。