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No.267

歴史展示室

花愛でる殿様-福岡藩主の植物学-

平成17年9月21日(水)~11月20日(日)

2、 黒田斉清(くろだなりきよ) と「本草正画譜(ほんぞうせいがふ)」
~蘭癖大名の学問ネットワーク~


黒田斉清(1795~1851)

 やがて、日本の本草学は、長崎経由で入ってくる西洋の情報の影響を受けながら、博物学的色彩を強めていきます。また、それと平行して、諸大名や武士の中にも本草学に熱中する人物が現れてきます。彼らは自主的に勉強会を組織し、国元や参勤交代の途中で集めた情報等を持ち寄り、研究活動に勤しみました。その中でも有名なのは、 伊藤圭介(いとうけいすけ)らが中心となり活動した 尾張国(おわりのくに)(現愛知県)の嘗百社(しょうひゃくしゃ)と富山(とやま)藩主 前田利保(まえだとしやす)が主宰した赭鞭会(しゃべんかい)です。福岡藩10代藩主黒田斉清は後者に所属し、月8回も催されたという研究発表会に参加しています。斉清は分からないことがあると、人のつてを頼り、 山本亡洋 (やまもとぼうよう)や江馬春齢(えましゅんれい)ら当代随一の本草学者らに質問の手紙を送っています。また、斉清の質問の相手は日本人だけにとどまらず、長崎に来ていたドイツ人医師シーボルトの元も訪れています。 福岡藩が 長崎警備をしていたからこそ 出来た 交流であると言えるでしょう。今回展示する「本草正画譜」もそういった本草学者らとの交流の一端を示す資料です。本図は序文に、これまで誤って伝えられてきた植物の名称を小野蘭山(おのらんざん)先生の協力を得て予(斉清)が訂正する、という趣旨が述べられています。蘭山といえば、本草学のバイブルとされた李時珍(りじちん)による「本草綱目(ほんぞうこうもく)」の研究を集大成した「本草綱目啓蒙(ほんぞうこうもくけいもう)」の著者として知られている人物です。斉清の研究のレベルの高さが窺い知れるエピソードです。


3、 黒田長溥(くろだながひろ)と「本草図(ほんぞうず)」
~最新の舶来植物を求めて~


黒田長溥(1808~1887)

 斉清の養子となり11代藩主となった長溥も、植物研究に励みます。長溥が残した「本草図」という図譜には、慶応から明治にかけて日本に輸入されたチューリップやヒヤシンス等が数多く登場します。戊辰戦争のまっただ中にも植物研究が行われていたわけです。本図に描かれた植物は品種としてはそう多くはありませんが、花の描き分けが詳細です。例えばチューリップだけをとってみても、30数種類あります。その研究からは、薬種を調べることを目的にした本草学から、分類や遺伝等を重視した近代植物学へと移りゆく様子が見て取れます。


おわりに

 冒頭で挙げた諸大名の研究と比べると、福岡藩主の諸研究はあまり有名ではありません。しかし、残された数少ない研究成果、とりわけ精細さを極めた図譜からはその熱心さがよく伝わってきます。長崎に近く(=海外情報が豊富)、江戸から遠い(=道中で得る情報が豊富)福岡は、植物の研究をする上で、有利な場所であったのかも知れません。
(宮野弘樹)



ヒヤシンス(「本草図」より)

チュルブ(「本草図」より)
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